お客様事例PRISM LAB

世界大会の優勝パティシエ、
「ショーキッチン」でスイーツの可能性に挑む

PRISM LABのショーキッチンと物販のカウンター。スイーツを買いに来たお客様はパティシエがスイーツの製作をしている様子を見ることができます

世界を代表する洋菓子のコンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー」。その2023年大会の優勝チームの一員である柴田勇作シェフパティシエが2024年2月、スイーツの創作・製造キッチンと販売スペースなどで構成されるパティスリーを開業なさいました。場所は、徳島市の海辺に広がる倉庫街。コンテストの舞台の雰囲気を再現した、約140㎡に及ぶ「ショーキッチン」を拠点に、スイーツの価値を高め、地域に貢献する活動に取り組むと意気込んでおられます。

自身の理想のスイーツ作りを目指すための“研究所”

柴田勇作シェフパティシエ。「PRISM」には、「パティシエや生産者、アーティストといった多様なプロフェッショナルの力を結集させて創作に取り組み、新しい光や色を生み出すプリズムのような存在を目指す」といった意味合いがあります

高度経済成長期に港湾物流の拠点として栄え、現在は官民で倉庫街を活かした街づくりが進む、四国・徳島市の万代(ばんだい)中央埠頭。その倉庫街に2024年2月、スイーツの創作・製造キッチンと販売スペースなどで構成される、店舗面積約80坪(約264㎡)のパティスリー「PRISM LAB」がグランドオープンしました。

経営主体であるPRISMの柴田勇作シェフパティシエは、世界を代表するパティスリーのコンクール「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー 2023」の日本代表チームで、ロリポップとアイスケーキを担当し、日本に16年ぶりの総合優勝をもたらした実績の持ち主です。PRISMという名称は、社名であると同時に、スイーツの可能性を追求し、価値を高めながらスイーツを極め、地域貢献を目指す活動の総称でもあり、PRISM LABは、その活動拠点と位置づけられています。

PRISM LABのハード面の売り物は、床面積140㎡に及ぶ「ショーキッチン」です。クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー2023の会場に設営されたキッチンの雰囲気を再現したもので、パティシエの一つひとつの所作を、周囲に見せることを前提に設計されています。コンテストで審査員が座った位置には7席のカウンター席があり、店舗運営が落ち着いた段階で、スイーツのイートインを始めるそうです。

イートインスペースから見た、ショーキッチン。コンクール審査員が座っていた場所にカウンター席を設けています

「スイーツの価値を高めるために、プレゼンテーションを加える」

柴田シェフによると、世界大会の会場キッチンを再現したのは、ご自身のライフワークとも言える、スイーツの可能性を追求し、その価値を高める活動と深い関係があるそうです。

「私が洋菓子作りに携わるようになった約20年の間、洋菓子業界は、原材料費や人件費、光熱費などのコスト上昇など厳しい状況に直面していますが、一般的なケーキの価格なら、1ピース100円上がっているかいないか程度です。このままでは洋菓子製造が仕事として成り立たなくなるという危機感があります。洋菓子の素晴らしさをより多くの人に知っていただき、正当な対価を頂戴するためには、『これまでになかった何か』をプラスし、お客様の満足度を高める必要があります。その要素の一つが、プレゼンテーションではないかと考えました。『世界的なコンクールのキッチン』という舞台装置と、『そこにコンクールに挑戦したシェフが実際に立ってスイーツ作りをしている』という世界観は、強い訴求力があるはずです」(柴田シェフ)

クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーは、作品の出来栄えだけを評価するのではなく、作業の効率性や所作の美しさなども評価対象になるそうです。「大会そのものがライブなショーとして運営されます。製作過程もエンタテインメントの一つです」(柴田シェフ)。柴田シェフは、通年営業のPRISM LABでその環境を再現し、ご自身やスタッフの皆さまの所作を日常的にお客様に見ていただくことを前提とし、このキッチンを「ショーキッチン」と名付けられました。

ディシャップ付近から見たショーキッチン

「格好いいキッチンで働くのは気持ちがいい。仕事の仕方も変わる」

fujimakはPRISM LABの厨房設計のお手伝いをさせていただきました。「実店舗はコンテストのような1日限りの稼働ではありませんから、食材のストックなど、お客様の目に触れない方がよいものがあるのも事実です。これらを徹底的に隠しつつ、きれいな仕事ができる舞台装置として、キッチンを作り込んでいきました」(柴田シェフ)。アンダーカウンターの冷蔵庫や収納を機能的に配置し、床面から機器の立ち上がりはゴミがたまらないようにR(曲線)を出して隙間をふさぐなど、機能性と見た目の美しさを両立させたキッチンに仕上がっています。そして、このショーキッチンが稼働するようになって、予想していなかった気づきがあったのだと柴田シェフが明かしてくださいました。

「整然とした、格好いいキッチンで働くことは気持ちいいことなんだと気づかされました。スタッフも僕と同じことを感じているようです。整然とした、美しい状態を維持するために、キッチンの中を汚さず、きれいな仕事をする方向に意識のベクトルが揃いました。服を汚さないとか、器具を仮置きするときも向きを揃える、といったような細かな所作にもその変化が現れていて、働く人の意識まで変わっています。“キッチンを作り込む”とはこういうことなんだと腹落ちしました」(柴田シェフ)

fujimakがお納めした厨房機器類で、柴田シェフがとりわけ高くご評価くださったのが冷蔵庫・冷凍庫です。造形の工夫により、扉前面が平面でありながらも、縁の凹凸が取っ手の機能を備えています。「凹凸がないので、他の機器類と並べた時の前面もビシッと揃っていて、スタイリッシュですね。『冷蔵庫の開閉時は、縁以外は触ってはいけないというルールにしています。そうすれば他の部分は汚れず、掃除の際は縁だけを拭けばよいですから。その方が所作もきれいですし、清掃も早く終わります」(柴田シェフ)。

ショーキッチンのカウンター内で。「取っ手が出っ張っていない冷蔵庫を使うのは初めてです。パッキン等の露出もなく、美しいです」(柴田シェフ)

「東京を出たからこそ、実現可能な空間」を作った

1986年生まれの柴田シェフは、東京出身。「CRIOLLO」や「ザ・ペニンシュラ東京」など数々の有名店でパティシエとしての研さんを積み、クープ・デュ・モンド出場以前も、いくつものコンテストで輝かしい成績を収めておられます。ただ、2022年4月に徳島に移住する前は、パティシエとして満たされない思いを抱き続けていた時期が長くあったそうです。

「地方出身のシェフが、自分の育った地域の特産品を誇らしげに語る様子を見てうらやましく思っていました。お菓子作りをする上で、私にはそのような思い入れのある食材や地産のルーツがありませんでしたから。極端な言い方をすれば、市場に入った食材を使ってお菓子にして、お客様へお出しするという日々でした」(柴田シェフ)。ところが、2019年、徳島産の「木頭(きとう)ゆず」と出合います。徳島県那賀町の木頭地区は、ゆずの商業栽培のルーツとなった産地で、柴田シェフは、木頭ゆずの芳醇な香りとインパクトのある酸味に惚れ込んだそうです。「過疎化が進む地域で、生産者の方々が素晴らしいものを作っています。それを僕らが使って、いいものだと広めると、認知度が高まって、生産を続けることができるようになりますよね。僕がお菓子を作ることに意味を見出せると感じたのです」(同)。

「ガトーショコラ フランボワーズ」(写真左)、「サンバースト(木頭ゆずのショコラ)」(同右)

ただ、徳島は、木頭ゆずの存在を知るまでは、ご自身にとって縁もゆかりもない土地でした。そんな地方都市になぜ移住し、拠点を構えようとしたのでしょうか。

「東京では素晴らしいシェフたちのお店がたくさんあり、自分くらいは別の道を模索しても良いのかなと思いました。上京して東京で成功した人がたくさんいますから、僕はその逆をやろうと思いました。東京を出て、賃料の安い地方都市に来たからこそ、ショーキッチンを作り、空間を贅沢に使った店舗を構えることが可能になりましたし、新しく来たからこそ、新鮮な目でその地域と向き合えます。徳島や四国には、素晴らしい食材がたくさんあります。その良さを引き出し、地元の方々に『徳島にはこんなチョコレートがあるよ』と、誇らしい気持ちでギフトに使っていただけるような、新しい魅力を備えた洋菓子をお届けすること。そして、ビジネスをする上で東京に比べて恵まれている環境とは言えない地方都市でファンを増やし、スイーツの価値を認めていただく土壌を作り上げていくことは、僕だからこそできる挑戦だと思いました」(柴田シェフ)

エントランス脇に設けられた、オーブンやドゥコンディショナーなどを備えた工房スペース。ガラス張りにしています

PRISM LABを開業して数カ月。柴田シェフは、徳島に来て、空を眺める機会が増えたとおっしゃいます。「東京にいるときは、地下のキッチンで仕事をして、店を出るのは深夜。太陽の光を浴びずに仕事をして、空を気にしたことすらありませんでした。徳島には山や川、海、空といった豊かな自然があります。整然としたキッチンとは別の意味になりますが、今の自分は、つくづく美しい環境で仕事ができているなと感じます」(柴田シェフ)。

コンクール出場時のユニフォームが店内に飾られています。「製菓には、フランスのような星による評価がありません。クープ・デュ・モンドという大会の存在を消費者に知ってもらうことも移住した意味の一つだと思っています」(柴田シェフ)

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施設情報

施設名 PRISM LAB(プリズム ラボ)
運営 株式会社PRISM
所在地 徳島県徳島市万代町5丁目71番地6号
開業 2024年2月(グランドオープン)
Webサイト https://prism-lab.jp/pages/lab