食の仕掛人たち

コンセプトは「豊かで楽しいもう一つの家庭の食卓」。“居食屋”という独自の業態で日本人の新しい食のシーンを仕掛ける。
ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長 渡邉 美樹 氏

渡辺 彰 料理長 ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長
渡邉 美樹氏
神奈川県出身。1959年生まれ。'82年に明治大学商学部卒業後、経理会社に入社。同年10月に同社を退社後、運送業を経て'83年4月、24歳の時(有)渡美商事を設立。つぼ八のフランチャイジーをはじめ、宅配お好み焼きチェーン等を手掛け、'86年5月に(株)ワタミ(現在のワタミフードサービス)を設立、代表取締役社長に就任。




■スケールメリットをお客さまに還元。

FP:御社では“居食屋”という従来の居酒屋とは異なる新たなジャンルを掲げ、首都圏を中心に急速に店鋪展開を進めておられます。現在、不況と言われる社会情勢の中でも堅実な成長を続ける御社の各店鋪が広く消費者から支持を得ている理由について、社長ご自身はどのようにお考えでしょうか。

渡邉:私は、和民、和み亭については、第2の家庭の食卓として利用して頂きたい、そういう発想のもとにメニュー開発から価格設定、店舗の設計を行ってきました。
一人でも多くのお客様に、いつでも使ってもらえる「豊かで楽しいもう一つの家庭の食卓」という感覚で、気軽に利用してもらうためにはまず、低価格を追求することが必要でした。
和民をはじめてから8年程ですが、当初、平均387円だったメニュー単価が今では330円を切ろうとしています。これは店鋪数の増加に比例して原価を押さえることが可能となった結果であり、スケールメリットをメニュー価格のダウンというかたちでお客様に還元できたわけです。

FP:消費者の食に対する価値観は年代や性別、さらに職業などによって変わってくると思うのですが、御社で展開する各店舗は、どのような客層をターゲットとされているのでしょうか。また、今後は現在と違った業態開発を目指していらっしゃるのでしょうか。

渡邉:「和民」は20代後半の女性をターゲットにしたアルコール比率の低い居酒屋、「和み亭」は30代のニューファミリーをターゲットにしたアルコール比率の高いファミリーレストラン、そして「T.G.I.FRIDAY'S」はアメリカの文化を取り入れたカジュアルレストランで、ファミリーレストランや居酒屋に飽きた方をターゲットにしています。今後の業態開発としましては、まず2010年までは今の業態で1000店、2020年には3000店を目標に掲げています。この目標を達成する上では、先の3つの店鋪とはまた別に、今よりもアルコール比率の高いファミリーレストランという業態も開発していこうと思っています。

FP:今現在の日本社会において、渡邉社長が追求する飲食サービスの形とは一体どのようなものなのでしょうか。

渡邉:私は、現在29〜30兆円といわれるマーケットがそれ以上に伸びるとは考えていません。むしろ、その30兆円の中身が二極化していくと思っています。ファーストフードのような簡単に食べられる業態と、アルコールも充実していてしっかり食を楽しめるカジュアルレストランが伸び、現状のファミリーレストランのように、料理のみを提供するだけの店は結構きびしくなってくると予想しています。

FP:メニューの変更サイクルはどのくらいの期間で行っているのでしょうか。また、渡邉社長はすべてのメニューの計画や決定に携わるのでしょうか。

渡邉:現在、グランドメニューは半年サイクル、特撰メニューは45日サイクルで改編しています。メニュー開発は本部において行っていますが、各店鋪スタッフから上げられる提案や、お客様から寄せられる声も積極的に取り入れています。
最近では主婦パートさんのメニューコンクールも行うようにしています、「もう一つの食卓」というコンセプトの中では、普段家庭で食べるメニューが一番なごめるわけですから。
メニューの決定にあたって私がこだわるのは価格と商品です。お客様が「このメニューを食べたいな」と思うメニューを考え、次に「価格」から決定していきます。それから、そのメニューの原価をすり合わせて、利益が出るにはどのようにすれば良いのか調整していきます。

FP:社長ご自身が日常、外食される中からもヒントを得てお店のメニュー開発に活かされていると聞いておりますが、最近の経験の中で印象を持たれたメニューはおありでしょうか。

渡邉:京都の料理屋さんで食べた料理に、季節感と面白味を感じましたね。京料理は質素な素材でもムダ無く使い、手を掛けておいしく料理する工夫が随所にこらされていると思います。新玉ネギのスープもそうですが、すぐにうちの店でもこのアイデアを取り入れてメニューに展開しました。

「和民」秋の特選メニューからの3品
山芋ネギ焼き
山芋ネギ焼き

ジャガイモと豚肉のピリ辛炒め
ジャガイモと豚肉のピリ辛炒め

スモークサーモンのサラダ
スモークサーモンのサラダ

山芋とろろにネギを混ぜ、ふんわりとお好み焼き風に焼き上げている。
提供価格:380円

北海道契約農場からのジャガイモと玉ネギを使ったピリ辛の炒めもの。
提供価格:380円

新鮮野菜とスモークサーモンに特製ドレッシングをかけたヘルシーなサラダ。
提供価格:380円




■コストに対する取り組み

FP:消費者が満足する、リーズナブルな価格のメニューを提供する上で原材料の生産ルート、物流ルートを独自にお持ちであるとのことですが、通常の仕入れ形態と比べてどのような面でメリットが得られたのでしょうか。

渡邉:当社も自社栽培や契約農場を持っていますが、実際にはトータル仕入れ量のうち、5%ぐらいの割合です。
しかし、このことは非常に重要なことなんです。食材全部を自社でまかなおうとすれば、コスト的に無理がありますが、たとえ5%であっても、その内容をしっかり把握しているということは、他のルートからの仕入れに対しても有効に生かされてきます。たとえば、今この食材はこの質でこの価格が適正である、ということを我々がしっかり認識できることで、仕入れ先に対してきちんと指示をしたり、価格交渉が行えるなどのメリットが生まれます。
マーチャンダイジングのシステムを持つことも大事ですが、そのノウハウを知ることがもっと大事なことです。

契約栽培農場
ワタミフードサービスの契約栽培農場。同社では各地に品種ごとに契約栽培農場や特注魚養殖用のいけすを持ち、単なるコストダウンだけでなく、食材に関するさまざまなノウハウをこれらを通じて吸収し、活かしている。



■ISO14001の取得を機に高まる社員の環境意識
■ISO14001とは?

FP:特に、最近では食の生産者側で、ゴミ処理問題など環境問題に積極的に取り組む傾向が顕著にみられます。このような流れの中で、御社も積極的に環境問題に取り組んでおられるそうですが、具体的にはどのような形で実施されているのでしょうか。

渡邉:当社は外食企業として世界で初めてISO14001を取得したのですが、これから21世紀を迎えるに当たって環境により良い影響を与えていこう、という思いから取得にむけて取り組んだのです。
実際、取得するのに多額の投資を必要としましたが、逆にそれを上回る利益となって還元され、トータルとしては経費削減に貢献できるわけです。もちろん社員やスタッフが根本から意識を変え、真剣に取り組んだ結果であり、その後もそれが全ての店舗に浸透しているということが、何よりも代え難いものです。
特に私が申し上げたいのは、今後の外食産業においてISO14001をもっと多くの企業が取得していくべきだと考えております。そのためにも、私はこの規格の取得において当社が得たノウハウを当社だけのものとせず、必要とあらば公開していこうと考えています。
やはり一社よりも数社で情報交換をしながら行うほうがコストも押さえられますし、より具体性のある取り組みが行えます。
もしこの記事を読んでおられる外食企業の方で関心があり、これから取り組もうという方は、ぜひご一報頂きたいと思います。
ただ残念なことは、以前にも「取得するにはどうしたら良いのか」といった問い合わせを頂戴しましたが、そこの企業では本部だけでの取得を目指していたため、協力をお断りしました。各店舗の末端レベルまで含めた取り組みでなければ、なにも意味がなく、言葉は悪いのですが、ただの宣伝材料にすぎません。これには正直がっかりしました。
特に、ゴミ処理問題が発生するのは現場の店鋪ですから、本部だけが取得してもなんにも意味はない訳です。
一店鋪当たりのゴミの削減を5%でも10%でもをいかに行うか計画性を持って取り組むことがISOの仕組みであり、ポイントです。それが周りの会社にも影響を与えることがISOの良いところなのです。これを軸に、ご要望があればいつでもお応えしたいと考えております。

FP:御社の人材育成、社員教育のベースとなる部分、ポリシーの「源」となるものは何なのでしょうか。

渡邉:社員一人一人の人間性を高めていこうというのがそもそも会社設立の理念です。
目の前のお客様の喜びを自分の喜びとしてとらえられるようになって欲しいとの優しさや思いやりなど、人間として生まれ持った美しいものを高めていこう、周りの人や環境へ良い影響を与えていこう、ということがすべてのマニュアルの軸になっているのです。これを社員に伝えるために、まずは私の考えに共鳴していただくことが雇用時のポイントです。そして私が日常の中で感動したことをビデオや手紙でアルバイトへ伝えています。私が何を考えているのか、どの方向へ進んで行きたいのかという思いを積極的に伝えるようにしています。

FP:社長がかつて実践されたように、当社のジェットオーブンを利用されてお好み焼きの調理の自動化およびその製法特許を取得されておりますが、ご自身では調理システムに対してはどのようなお考えをもっておられるのでしょうか。また具体的なご要望があればお聞かせください。

渡邉:費用対効果が高いこと、そして安定した商品レベルの提供が保てること。これが調理システム導入ポイントになります。和民がこだわっているのは手作りです。
この先店舗が増えていってもこの品質を変えることなく維持していかなければなりません。厨房メーカーにも、そのような提案をしてほしいと思います。

FP:豊かな食の提案を軸に環境問題も踏まえ、人間性を高めていこうとするワタミフードサービスのお考えにとても感銘を受けました。我々もこれからのご活躍を応援させていただきたいと思います。本日はありがとうございました。




ワタミフードサービス株式会社
店内
本社 東京都大田区西蒲田7-45-6
TEL.03-5703-2255(代) FAX.03-5703-2700

●居食屋 「和民」 130店舗
●ファミリーコミュニティーレストラン 「和み亭」 2店舗
●レストランアンドアメリカンバー 「T.G.I.FRIDAY'S」 1店舗
(上記店鋪数はいずれも平成11年10月現在)

「和民」
居食屋
「和民」
調理に手間を惜しまない手作り料理を提供し、リーズナブルな価格で誰もが満足頂けるお店。
「和み亭」
ファミリーコミュニティーレストラン
「和み亭」
生活圏型居食屋として、居酒屋とファミリーレストランの中間業態として展開。
「T.G.I.FRIDAY'S」
レストラン アンド アメリカンバー
「T.G.I.FRIDAY'S」
古き良きアメリカをコンセプトとするアメリカ家庭料理を主として豊富なドリンク類とともに提供する新業態として展開。



1.食の仕掛人たち
「コンセプトは『豊かで楽しいもう一つの家庭の食卓』。
“居食屋”という独自の業態で日本人の新しい食のシーンを仕掛ける。」
INDEX
Vol.9 目次へ
[ ワタミフードサービス株式会社 代表取締役社長 渡邉 美樹氏 ]
2.季節のメニューアイデア
「秋の料理」
[ ホテル グランパシフィック メリディアン ] [ 広東料理 楼蘭 ] [ フレンチレストラン エピス ]
3.食のレーダー
「Vol.9 ”日配弁当”の新たな挑戦」
[ 株式会社い和多 ]


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