フードプレス vol.26
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Point of View 現場の目線
学校法人越原学園 名古屋女子大学 給食経営実習室
愛知県名古屋市にある同大学の家政学部・食物栄養学科における管理栄養士教育の場として完成した「給食経営実習室」は、最新の設備を備えた実習室として関係者からも注目を集めている。
同学科からは毎年優秀な卒業生が送り出され各方面で活躍しているが、これは日々実務に即した厳しい教育が行われているからである。
今回は同学科で給食経営実習を担当されている片山先生に、施設計画の概要ならびに独自の教育・実習方式等についてお話を伺った。
実習室外観
名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科 講師 片山 直美先生
名古屋女子大学 家政学部 食物栄養学科
講師 片山 直美先生
(医学博士・管理栄養士・健康運動指導士・MBA)
主調理室
主調理室のディレクター待機場所には全室の作業状況が順次映し出され、適切な指示を出すことができる。
役割別の実習風景
学生は役割別に班に分けられて実習を行う。それぞれの班ごとに帽子・三角巾が色分けされており、誰がどの班か一目で確認することができる。
主調理室
一般的な調理の他、クックチルなどの新調理法にも対応した主調理室。ガス機器、電化機器双方を併用している。
上は一般食 下は病態食
この日調理、提供された食事の一部。上は一般食(チリコンカーンほか)、下は病態食(腎臓病〜肉じゃがほか)。

まず、今回新設された実習室の設計にあたって片山先生が特に配慮された点をお聞かせ下さい。

片山 過去使用していた実習室の老朽化が進み、現在厚生労働省が定めている管理栄養士の教育には不適格だったこともあり、まずHACCPに基づく衛生管理概念に沿った管理が行えることはもちろんですが、厚生労働省が定める大量調理マニュアルに適応し、かつ管理栄養士として働く場である「学校給食」「病院給食」「産業給食」「老人保健施設」の調理作業工程と一致した実習が行える施設にしようと考えました。
その中でも、学生の就職率が高い学校および病院給食における調理作業を主に想定して計画しました。また、現在管理栄養士を多く必要としている病院及び老健施設では病態別の食事提供が必ずあるため、試作室にもすべての調理工程が行える機能を持たせることで一般食の実習と別室で平行して作業を行えるようにしました。

実習室が作業工程及び衛生管理規準別に細かく部屋分けされていますが…

片山 調理実習室は調理工程・作業内容別に、衛生管理区分に準じて明確に区分し、出入口は手を介した汚染を防ぐため自動ドアを採用しました。
また、カフェテリア・レーンと客席の境にもシャッターを設け、配膳と下膳の時以外は完全にクローズすることで清掃時の衛生面の保持が行えるよう配慮されています。

実習の際は衛生班による衛生チェックもかなり細かくやられていましたが…

片山 私は常に現場での実作業を意識して教育のカリキュラムを組みます。
11時半から配膳を開始するために、そこから逆算してそれぞれの持ち場の仕事を開始させます。学生には常に実際の現場における時間の流れ、作業の段取りを意識して行動させるようにしています。
現在採用している「片山方式」の調理実習においては、学生を仕事の内容に応じて管理栄養士、栄養士、調理士、パート、衛生、マーケティング、事務という7つの班に分けています。学生は7つの班を順にロールプレイング方式で全て経験します。さらに医師あるいは所長という役目、また管理栄養士役の中でも総括担当者もその都度決めて担当させます。
朝の7時過ぎに管理栄養士が入場し、厨房の清掃・消毒を行い、水質検査をするところからスタートし、8時過ぎに朝礼を実施、11時には配膳が行える直前までの作業を終えて検食を完了するまでそれぞれの班が無駄なく、効率良く動けるように事前に綿密なタイムスケジュールを作らせて作業を担当しています。
そしてお客様が帰り、食器洗浄や厨房、什器類全ての清掃が終わった後にその日のアンケートの集計や反省などを班ごとにレポートとしてまとめさせます。

衛生管理区分別に部屋が分かれているので、実習全体の統括、進行はどのように行っているのでしょうか?

片山 この実習室では各部屋にテレビカメラ、スピーカー、マイクが設置されており、管理栄養士班のうち総括というディレクター役を担当する学生が調理室から全室の進行状況をモニターで確認しながらインターカムで連絡を取り合い遂次指示を与えます。
この方式はアメリカのカリフォルニア大学の学生食堂で導入されていたものを参考として導入したのですが、相互にコミュニケーションを取りながら実習を進めていくことができます。

実習を七つの班に分けて実施する趣旨をお聞かせ下さい。

片山 学生たちは管理栄養士を目指して勉強しているのですが、管理栄養士というものは、そこに働くすべての人が円滑に動いて仕事をしやすくするための裏方である、という自覚を持つことが必要と考えています。これが自覚できれば管理栄養士として成功すると思っています。私たちは決して人の上に立って命令する人ではないのです。そこをわかってもらうために、全員が先の7つの班を順にロールプレイング方式ですべて経験します。例えば自分がパート班でやっているときに大変な思いをすれば、今度は自分が管理栄養士を担当したときに仕事の大変さが分かるから、適切な休憩時間の配分や作業の配置もわかるようになるでしょう。管理栄養士の「資格を取るための教育」ではなく、現場に出てからも「自分がするべき仕事がきちんと出来る」管理栄養士となるよう、指導・教育しています。

他に独自の教育カリキュラムはどのような内容があるのでしょうか?

片山 私の担当授業は臨床栄養学実習、給食経営管理論、給食経営基礎実習、給食経営応用実習、フードマーケティング論です。これらは管理栄養士になるために全て連動した勉強と考えています。
例えば、経営的な観点から見れば、当然ながら安いコストで美味しいものを作ることが重要です。メニューを考える学生には、「この食事はいくらの定価なら売れるか?」を先に設定させます。喫食者からのアンケートには「あなたはこの食事にいくら支払いますか?」という質問があります。低コストで高い評価を得たメニューを作成した学生には良い評価を出します。どのような給食の現場でも原価意識を持つことが求められますが、同時に喫食者に満足される食事を考えることも重要なのです。そしてこの原価で経営を成立させるためには、実際にどこまで人員を配置できるか、と言うところまで意識し、何食売り上げれば利益が出せるか、そして1年間の実習結果をもとに、他班の人の賞与査定を行うところまでシミュレーションさせます。また、食品リサイクル法の施行に伴い、生ゴミの排出量から後処理までを含めて、環境の分野に至るまでそれぞれ関連を持たせて授業を行っています。

学生や卒業生に対する外部や就職先の評価はいかがですか?

片山 在学中に実施している校外実習の際、うちの学生はどんなに遠隔地でも、早朝の作業があってもきちんと派遣先の職場のタイムテーブルに合わせて通います。派遣先の方からやる気と意気込みが違うと評価を頂いており、どこの施設でも気持ちよく受け入れて下さいます。
また、年に数回行う公開講座では近隣のお年寄りや住民の方にも参加して頂き食事のサービスをすることがありますが大変好評で、あるお年寄りからは「病態食の宅配は出来ないものか?」と質問されたこともありますが、あくまでも学生の実習の一環なので残念ながら難しいです、とお答えしたこともありました。

最後に、片山先生は学生には何を学んで欲しいと思いますか?

片山 今回新設された施設では、これから給食の分野で取り組まなければならないこと、経験しなければならないことを全て学ぶことが出来ます。そして単に食事を作る、栄養計算を行うということだけでなく、経営的な感覚も身につけることができます。裏を返せば、私がこれからの時代の栄養士に学んで欲しいことを一通り実務に近い形態で学ばせることができるのです。
在学中に実務に近い経験をさせることで、一人一人の学生が自分はどの分野に就職すれば良いかということが自ずとわかるようになります。社会に出てから「ここではなかった」と気づくのでは、就職先にも迷惑をかけてしまいますし、本人にとってもマイナスです。
何よりも私が授業を通じて学生に一番考えて欲しいことは、自分自身で責任をとるという「責任の重さ」、実習で得る「相手を信頼して仕事を任せる心」、「協力」に対する「感謝の気持ち」を知ることです。
「感謝の気持ち」が学生自ら出てこなければ実習は失敗だとさえ思っています。
給食をつくる仕事は絶対に一人ではできません。各セクションのみんなが協力しなければ不可能なのです。
私はいつも“協力・信頼・責任・感謝”の心が、学生自身からどのようにして出てくるかを見ています。
特に「信頼」は自分が正しい指示を出したかどうかということの表れでもあります。人は任せてみないとわからないのです。
そして「みんなの中から見た自分」、「自分の立場から見たみんな」という位置関係を実習を通じて学んで欲しいと思います。

今回の取材を通じて、片山先生が考える栄養士教育のありかた、また実務経験の大切さが良くわかりました。これからも一層のご活躍をお祈り申し上げます。

学校法人 越原学園 名古屋女子大学
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