料理人の“職業病” Check & Care

第3回

足の病気、熱中症

調理従事者に患者が多く、「料理人の職業病」などと言われる病気について、基礎知識とケアの方法などを解説するシリーズの最終回。今回は、足の病気と、夏にリスクが高まる熱中症についてです。講師は福島県立医科大学・スポーツ医学講座の特任教授で、医学部整形外科学講座講師の加藤欽志医師です。

【おことわり】
病気の症状や進行度合いは個人ごとに異なりますので、痛みが強かったり、症状が改善しなかったりする場合は医療機関を受診してください。また、薬の服用や注射、手術などには、多くの場合、合併症や副作用などのリスクが伴います。医師の説明を受け、納得した上で治療を選択するよう、お願いします。

足 ~足のむくみ、「下肢静脈瘤」~
「血管ボコボコ+むくみ」は医療機関を受診

基礎知識下半身の血液は重力に逆らって心臓に戻る

足のむくみに悩んでいる料理人の方は多いと思います。人間の下半身には全体の7割もの血液が集まっています。血液は、下半身を巡り、重力に逆らう形で心臓に戻ることになります。このときに重要な役割をするのが下半身の筋肉、特に、ふくらはぎの筋肉です。ふくらはぎの筋肉をポンプのように伸び縮みさせて心臓に血液を戻すのです。このポンプ作用が何らかの原因でうまくいかなくなると、ふくらはぎで血液が停滞して足がむくみます。

一般的に、筋肉量が少なく、やせている人の方がむくみやすい傾向にあります。病的でない一過性のむくみは、長時間同じ姿勢でいることや、運動不足による筋力の低下、過度なダイエットなどが原因で起こります。

足のむくみが起きる病気で多いのが、「下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)」です。足の静脈には心臓に向かった血液が逆流して足に戻ることを防ぐ静脈弁がついています。その静脈弁が壊れて、逆流した血液が足に溜まってしまう病気が下肢静脈瘤です。むくみのほか、足が重い、痛い、疲れやすい、足がつるなどさまざまな症状があり、冷える、ほてるといった症状が出る場合もあります。進行すると皮膚のかゆみや皮膚硬結(硬くなること)、しっしんなどが出てきて、最終的には皮膚が黒くなり、潰瘍ができる場合もあります。

矢印は静脈を流れる血液の、本来の流れ。加藤医師の手は静脈弁の向きを表す。弁が壊れて、逆流した血液が足に貯まるのが下肢静脈瘤。

下肢動脈瘤は、料理人など、長時間の立ち仕事に従事する方に患者さんが多く、年齢とともに進行しやすくなります。男性より女性に多い(男性の約2~3倍)のが特徴です。肥満、高血圧、糖尿病の方などは注意が必要です。遺伝子は明らかになっていませんが、家族に下肢静脈瘤がある場合には、その人も下肢静脈瘤になりやすいといわれています。足にコブのようなボコボコしたものがあり、そこにむくみが加わっていたら、治療が必要なものかどうかを判断した方がよいため、医療機関を受診してください。治療が必要な場合、最初は圧迫用のストッキングなどを着用することになるケースが多いですが、根本的な治療は手術となりますので、血管外科の医師との相談が必要です。

セルフケア体を動かし、下半身の筋肉量を維持

しっかりと体を動かして、下半身の筋肉量を落とさないようにすることが基本です。足首を回すとふくらはぎの筋肉も動きますので有効です。アルコールの飲み過ぎを避け、塩分を摂り過ぎないように気をつけましょう。

足のむくみは、腎臓の障害や心不全、肝臓の障害といった要因でも生じます。半年以上、運動を続けているのに足がむくむときは医療機関を受診してください。また、片方の足だけが急にむくんできたときは、静脈血栓症の疑いがあります。すみやかに医療機関を受診してください。血の塊のような血栓が血管を突然詰まらせます。血栓がそのままの状態だと腫れているだけですが、血栓が肺にまで到達すると、肺塞栓症になって、最悪の場合、心臓が止まってしまいます。

熱中症
自力で水を飲めなければ救急車!

基礎知識声かけへの反応で対応を判断

厨房での作業では、熱中症に十分な注意が必要です。熱中症とは、体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして、体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす病気のことです。「高温・高湿度」の環境がリスクで、特に7月に注意が必要です。

熱中症を疑う症状は実に多く、具体的には、めまいや失神、筋肉痛、筋肉の硬直、大量の発汗、頭痛、不快感、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感、意識障害、けいれん、手足の運動障害、高体温などが挙げられます。熱中症を疑ったら、周囲の人が「〇〇さん、大丈夫ですか!」と呼びかけてください。呼びかけに応えることができれば、涼しい場所へ移動させ、服をゆるめて体を冷やします。首、脇の下、太もものつけ根を集中的に冷やします。水分を自力で摂取できる場合は、塩分の入ったスポーツドリンクや経口補水液、食塩水を飲ませましょう。体を冷やしても症状が改善しない場合は医療機関を受診してください。

呼びかけに応えなかったり、うまく返答が来なかったりする場合はためらうことなく救急車を呼びましょう。呼びかけへの反応が悪い場合は無理に水を飲ませてはいけません。本人が倒れたときの状況を知っている人が救急車に一緒に乗り、発症時の状態を伝えるようにしてください。

予防法喉が渇く前に水分補給。手のひらを冷やす

喉の渇きを感じなくても、こまめに水分・塩分、スポーツドリンクなどを補給することが最も大切な予防法です。「喉が渇いてから水分を補給していては遅い」と覚えておいてください。喉が渇く前に水を飲む癖をつけましょう。アルコールの摂取は、脱水の原因になるため逆効果です。

作業環境も、可能な限り高温・高湿度を避けるように工夫してください。エアコンや扇風機、スポットクーラーなどを使って室温をこまめに調節しながら通気性を確保し、通気性がよく、吸湿性・速乾性のある衣服を着用してください。併せて、適宜、体を冷やすようにしましょう。

体を冷やす際は、手のひらを冷やすのが効果的です。体温調節に重要な役割を担う「動静脈吻合(ふんごう)」という血管が手のひらに多くあるからです。ただし、冷たすぎるものは血管を収縮させ、体内の血流量を減らしてしまうため、15℃くらいの少し冷たいと感じるくらいのペットボトルなどを握るようにしましょう。手が汚れていなくても、手を長めに水洗いする習慣をつけることも有効です。

なお、手のひらを冷やす方法は、症状が起きる前の予防法です。すでに熱中症が疑われる症状が出ている場合には、手のひらだけでなく、首・脇の下・脚の付け根を含めた全身をすみやかに冷やすことが重要です。

講師紹介
医学博士加藤欽志(かとう・きんし)
公立大学法人福島県立医科大学スポーツ医学講座特任教授、同医学部整形外科学講座講師。日本整形外科学会専門医、日本脊椎脊髄病学会指導医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医、日本整形外科学会認定スポーツ医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、国際オリンピック委員会認定スポーツドクター。日本整形外科学会スポーツ委員会委員や東北楽天ゴールデンイーグルスのチームドクターも務める。

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