インフレに勝つ! メニュー戦略

第2回

テイクアウトも値上げすべき?

インフレに立ち向かうために飲食店がとるべきメニュー戦略を、フードビジネスコンサルタントの石田義昭氏に解説していただくシリーズの2回目です。今回は、メニューエンジニアリングマトリクス(MEM)に基づくメニュー分析と、テイクアウトにおける価格戦略などについて。石田氏は、テイクアウトを物販に発展させ、第二の柱に育てるつもりで市場の変化を観察する姿勢が必要だと話します。

メニューエンジニアリングマトリクス(MEM)の考え方

前回、売上高に着目してABC分析を行い、値上げの対象とすべきメニューを絞り込む方法をご紹介しました。今回は、メニューエンジニアリングマトリクス(MEM)による分類をご紹介します。MEMは、売上高だけではなく、粗利益(売価―食材原価)も考慮に入れて、出数と収益性の2軸でメニューを評価するものです。

まず、メニューを人気で分類します。人気が高いか低いかの線引きは、「1 ÷全メニュー数× 0.7」で計算します。メニュー数が40アイテムであれば、1÷40×0.7=0.0175ですので、出数が全注文数の1.75%以上あるメニューは人気が高い方に、それ未満は人気が低い方に振り分けます。ただ、全体の傾向を見る上では、出数ランキングを作り、単純に平均出数で線引きして、高低の2つに区切っても結構です。

次に、各メニューの粗利益額(出数×1注文当たりの粗利益額)を計算し、平均粗利益(全メニューの粗利益の平均)を基準に、粗利益の「多い」「少ない」を振り分けます。こうすると、全てのメニューが4グループのどこかに位置づけられます。

「汗かき」を値上げし、「負け犬」は入れ替える

4つのグループごとに取るべき対応は以下のとおりです。

【スターメニュー】…人気があり、粗利益も多いメニュー群

このグループは、値上げを我慢できるのであれば我慢した方がよいメニュー群となります。なぜなら、もともと粗利益が多い=儲かっている、からです。スターはそのままにしておいた方が、「この店は値上げをしないで頑張っている」という印象を与えることができます。店舗の収益に余裕がない場合は値上げも可ですが、できるだけ少ない値上げ幅にとどめましょう。

【汗かきメニュー】…人気はあるが、粗利益が少ないメニュー群

本来、食材調達などを工夫して原価率を下げ、粗利益を増やす工夫をするべきだったメニューです。ただ、今回はインフレでそれが難しいわけですから、汗かきメニューどころか、いくら売っても儲からない、「ものすごく汗をかくメニュー」になってしまいます。これは値上げをせざるを得ません。

【問題児メニュー】…人気はないが、粗利益は多いメニュー群

極端に商品力が低いのに高い値付けをしているケースでない限り、ここのグループは注文が増えれば、お客様の支持を得ながら利益も増えるメニュー群となります。「実力はあるけれども、人気がない」わけですから、必要な打ち手はプロモーションです。スター同様、粗利益がとれるメニューですから、可能なら値上げを行わずに、フェアを実施するなどして、売り込みをかけましょう。これが売れるようになればスターになります。

【負け犬メニュー】…人気がなく、粗利益も少ないメニュー群

人気もないし、儲かりもしない。いいことは何もないのですから、このグループは今回、思い切ってメニュー表から落としましょう。前回ご説明した「もう1品」の併売メニューや高単価のメニューを投入して、この負け犬メニューと入れ替えるのです。そうすると、メニュー数が膨らんでオペレーションに負担がかかる事態を防ぐことができます。

告知は一週間から10日前を目安に

値上げを伝えるPOPの例

値上げの告知は、値上げ日の一週間から10日前を目安に、店内にPOPなどを掲示しましょう。正直な商いをするという意味では、決まったらすぐに告知をした方が良いのですが、これ以上早いタイミングで告知をすると、値上げのネガティブなイメージが定着してしまい、逆効果になりかねません。

POPには、据え置きのメニューがあるのであれば、そちらを前面に出して企業努力を強調します。「看板メニューの〇〇〇、価格据え置きで頑張ります」といった具合です。その上で、「仕入れ値の高騰につき、一部メニューにつきましては価格を変更させていただきます」などと記します。事情があるわけですから、その事情をきちんと説明することが大切です。

テイクアウトを値上げしない方がよい理由

コロナ禍を受けてテイクアウトを導入した店舗も多いはずです。導入当初と比べて、その内容は進化しているでしょうか。コロナ禍が長期化し、人手不足が本格化しています。テイクアウトに対症療法で取り組む時期はもう過ぎました。唐揚げ弁当のような他店と同じメニューではなく、自店の看板メニューや定番メニューをテイクアウト用に仕立てたり、店舗入り口に専用の売り場を作ったりというように、取り組みを発展させて、先行き不透明な時代を生き抜くための、第二の柱に育てましょう。

テイクアウトの価格設定について注意すべきことがあります。これまでイートインもテイクアウトも同じ価格だった場合、テイクアウトメニューは値上げをしない方がよいと思います。本来、テイクアウトはイートインの価格より安く設定すべきです。お客様は、メニューをテイクアウトする際に、店での接客サービスを受けていません。エアコンで涼んでもいませんし、店のおしぼりも椅子も、トイレも使っていません。イートインとは原価構成が異なるのです。

宅配ピザチェーンのテイクアウトも、上記と同じ発想の価格設定で売り上げを伸ばしています。お客様が店舗まで商品を取りに行けば、価格が半額になったり、もう1枚が無料になったりします。配達という付加価値がない分、お値打ち感を明確に打ち出して支持されているわけです。

「テイクアウトの値段をイートインよりも安くしたら、お客様は店で食べずに、買っていくだけになってしまうのではないか」。こんな疑問を持つ方がいらっしゃるかもしれません。それは、店内でのサービスに付加価値がないことの方を問題にすべきです。接客や器など、店内サービス全般を見直しましょう。

話が価格から逸れますが、テイクアウトの可能性について解説しておきます。多くの飲食店にとって、テイクアウトはコロナ禍における急場しのぎの策だったのかもしれません。しかし、収益化の道を本気で模索する経営者たちは、テイクアウトを小売りの域に発展させ、新たな商機をつかみつつあります。パッケージを工夫し、地元の道の駅や近隣の食品スーパーなどに商品を卸す例が増えてきました。

無人店舗に自動販売機を設置する餃子販売などもこの文脈で捉えることができます。「自販機で商品を買っている人の姿なんか見たことがない」と感じる人は多いでしょうが、1000円の商品を24時間で20セットも売れば、その自販機はおおむね黒字になります。お客様が自販機での購入に要する時間はせいぜい2分間。24時間稼働で20人来店したとしたら、1時間あたり1人もいません。購入の現場を目にする機会が少ないのは当然です。

自販機は商品の補充などを除けば人件費がほとんどかかりません。商品も店舗のアイドルタイムに作ればよいのです。今は冷凍技術も進歩しています。今はまだ話題先行ですが、飲料は自販機での販売が当たり前ですので、消費者は自販機の利用に抵抗は少ないはずです。人件費が高騰する時代の販路として、フード自販機の普及については注視しておいた方がよいでしょう。

インフレ対応の仕入れは産直ルートの開拓がカギ

私は以前、fujimakのサイトで、コロナ禍で生き残るための飲食店経営術について解説をしました。このときお伝えした内容の多くは、インフレ時代の飲食店経営術にも置き換えることができます。

例えば以前、会計のキャッシュレス対応をお勧めしました。お客様は物価が上がっているからこそ、「決済でポイントが付くかどうか」に敏感になっています。「PayPay」などのキャッシュレス決済サービスには、割り勘ができる機能もあり、グループ客での利用が増えています。まだキャッシュレス対応をしていない店舗はキャッシュレス決済の導入を急いだ方がよいと思います。

産直による仕入れも行動に移してみる価値があります。インフレは世界共通の傾向ですし、食品流通に関わるあらゆる経費が値上がりしているのですから、自分は店にいて、業者さんに食材を運んでもらいながら、「うちの店には値上げをしないでくれ」というわがままな依頼が通用するはずがありません。

食材の原価を少しでも抑えたいのであれば、自分で産地に足を運び、畑を歩いて、農家の人と話をしてみましょう。農協に出せない、規格外の野菜がたくさんあるはずです。「何でもいいですから、穫れた野菜を箱に詰めて送ってくれませんか」とお願いすると喜んで送ってくれますよ。「何でもいいから」と言うのがポイントです。店内で調理すれば、形の悪い食材も立派なメニューになります。魚介類も同じです。知らない人に声をかけるのが苦手な人は、同級生や地方出身のパート・アルバイトなどに農家や漁師の知り合いを紹介してもらってから産地に足を運ぶとよいでしょう。

信用調査機関の調べによると、2021年は飲食業の法人設立が過去最多となったそうです。

こうした新規参入組の多くはまだ店舗を出店していません。コロナ禍後の環境変化やメニューの流行を見定めたうえで、近隣に新メニューを揃えたピカピカの新店が開業するかもしれないのです。その競争に勝てるかどうかは、自分の店の魅力次第です。まずは価格をテコにメニュー全体を見直して、きちんと利益が取れる体質を築いて、厳しい経営環境に立ち向かいましょう。ご健闘をお祈りいたします。

講師紹介
株式会社FBA代表取締役 
フードビジネスコンサルタント
石田義昭(いしだ・よしあき)
経営コンサルタント歴30年。「無敵の飲食店づくり」をテーマに経営支援を全国で行なっている。「顧客誘導と飲食店経営」を理論体系化し、顧客心理に訴える具体的な戦術指導には定評がある。3~5坪の小さな店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超え、顧問店の中から超繁盛店・多店舗展開企業などを数多く輩出している。USJ隣接の商業施設「ユニバーサル・シティウォーク大阪」内「風神雷神」、東京ドーム「ラクーア」飲食施設、大洗リゾートアウトレット飲食施設など大規模な商業施設のプロデュースも手掛ける。

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