更新日:2026年02月03日

シェフが秘訣公開!
コンビオーブン加熱の“攻め方”
~微妙な温度の違いが生み出す、仕上がりの違い~

品質を維持しながら効率的な調理を実現するには、精密な温度制御が不可欠です。わずか2~5℃の加熱温度の違いが、料理の食感や品質に劇的な変化をもたらすことをご存知でしょうか。本記事は、ボキューズ・ドール国際料理コンクールで入賞実績のある、神戸のフレンチレストラン「アントル ヌー」オーナーシェフ 髙山英紀氏による実際の展示会での調理実演内容をもとに、フジマックが科学的根拠を付加してお届けいたします。プロの料理人による実践的な温度制御技術と、タンパク質の熱変性理論を組み合わせることで、スチームコンベクションオーブンを活用した効率的な調理活用例をご紹介します。

*本記事に記載する調理温度は参考値です。実際に調理を行う際は、各施設の調理・衛生基準をもとにご判断ください。
*本記事は、食品科学・調理科学分野の一般的な知見をもとに作成しています。

実践例1/肉料理
ローストビーフ
~温度差4℃が生む食感の違い~

ローストビーフに火入れをする目的は、単なる加熱ではありません。噛んだ瞬間のジューシーさ、そして柔らかさ。お客様ごとに、あるいは肉の部位ごとに、その最適解は変わってきます。

肉類の温度変性

タンパク質は温度上昇とともに段階的に変性します。特に肉類では、以下のような変性により、食感が変わっていきます。この科学的知見を活用することで、狙った食感を正確に再現することができます。

温度 変化
50-55℃ ミオシン※1が収縮し始め、肉汁が流出開始。
56-58℃

ミオシンの変性が進み、食感が締まり始める温度帯であり、ジューシーさと適度な弾力が得られる。

水分の流出はまだ限定的です。脂肪も溶け始めるため、脂身も柔らかい状態を保つことができ、作り立てを温かいまま提供する場合に適しています。

60-65℃

アクチン※2の変性が進行し、肉質が締まる。

水分が適度に減り、冷却後も食感が維持されるため、ほどよい歯切れの良さが保てます。お惣菜、おせち料理など冷たくする料理に適しています。

65℃以上

コラーゲンが収縮し、硬くなる。過度な水分流出により、パサつきが顕著になる。

煮込み調理などで60~70℃で長時間の加熱を行うと、コラーゲンはゼラチン化し、柔らかくなります。

※1 ミオシン……食肉の主要なタンパク質のひとつ。筋収縮の主要な役割を担う。
※2 アクチン……ミオシンとともに筋肉の収縮を行うタンパク質。

調理条件の比較

前処理として、バリオ220℃で3分ソテー※3します。バリオでのソテーは、220℃に設定したバリオに肉を乗せ、タイマーを3分にセットするだけ。「この間、私は他の仕込み作業ができるんです。機械が完璧に焼いてくれますから」と髙山シェフ。ソテーに続いては、コンビオーブン(スチームコンベクションオーブン)で下記の加熱を行います。

低温調理(90℃設定) 高温調理(120℃設定)
芯温 53℃到達後スチコンから取り出す。
10分後:58℃
53℃到達後スチコンから取り出す。
10分後:62℃
調理時間/湿度/風量 30分/50%以下/3

※3 ソテー……食材を高温・短時間で油やバターで焼き上げること。

調理結果

わずか4℃の芯温差により、明確な食感の違いが現れます。

低温調理(芯温58℃)の食味特徴

  • 歯ごたえ 弾力がありながら、噛むと口の中でほどける
  • 肉汁感 噛むと肉の内部に残った水分と旨味が口中に広がる
  • 色合い 中心部は鮮やかなピンク色で、視覚的にも美しい仕上がり
  • 食感表現 「水っぽい」と感じる人もいるほど、しっとり感が際立つ

高温調理(芯温62℃)の食味特徴

  • 歯ごたえ 適度な弾力があり、歯で切る際に「プツッ」という感触
  • 肉の繊維感 肉本来の繊維感を感じながらも、硬すぎない理想的な食感
  • 色合い 中心部はややグレーがかったピンク※4で、しっかり火が入った印象
  • 食感表現 「肉を食べている」という満足感のある歯ごたえ

※4 ややグレーがかったピンク……色合いの変化を起こすミオグロビン変性は60~70℃。肉の種類やpHで変動し、厚みと保持時間によっても変わります。

科学的背景

科学的見地からこの結果を見てみると、56℃付近でミオシンの変性が完了し、58℃を境に水分流出が加速するため、この温度帯での制御が食感を決定づけていることがわかります。

また、前処理もバリオシリーズを使用することで、品質を明確に標準化できます。ローストビーフの場合、220℃で3分間のソテーを行いましたが、温度とタイマー設定により、均一な焼き色を実現することができます。また、バリオにおまかせで調理できるため、調理者の経験に依存することがなく、品質の標準化が図れます。

実践例2/魚料理
ヒラメのヴァプール(蒸し焼き)
~5℃の差が生む繊細な違い~

ヒラメのヴァプールは、食材の持つ繊細な香りと食感を最大限に活かす料理です。魚類の場合、哺乳類よりも低温でタンパク質変性が始まるため、より繊細な温度管理が求められます。

魚類の温度変性

魚類は以下のような変性により、食感が変わっていきます。

温度 変化
49℃以下 コラーゲンの収縮が不十分、半生状態
50℃ 適度な凝固により、箸で切れる程度の火入れ
55℃ 表面の締まりと内部の柔らかさを両立

調理条件の比較

低温調理するには加熱用の魚ではなく、鮮度が保たれた生食用の魚を使用します。ヒラメのヴァプールの調理について、髙山シェフはこうおっしゃっています。「一般的な80℃や100℃程度の蒸し器で調理するとヒラメがパサつきやすいですが、コンビオーブン(スチコン)なら水分を適度に残し、しっとりとした仕上がりになります」

皮付きヒラメ 皮なしヒラメ
芯温 55℃ 50℃
調理時間/湿度/風量 5分/100%(蒸し器モード)/2

調理結果

食味の違いを具体的に表現すると、5℃の違いからこれだけの差が出ます。

皮なしヒラメ(50℃調理)の食味特徴

  • 食感 箸を入れると「スッ」と切れ、口の中でほぐれるような繊細さ
  • 水分感 魚本来の水分が保たれ、パサつきは一切なし
  • 旨味 淡白ながらも魚の甘みが際立ち、上品な味わい
  • 舌触り 絹ごし豆腐のような滑らかさで、舌の上で溶けるような印象

皮付きヒラメ(55℃調理)の食味特徴

  • 食感 皮は「プリッ」とした弾力、身は「しっとり」とした二層の食感
  • 皮の変化 湯引き処理により、通常は箸で切れない皮が簡単にカット可能
  • 味わい 皮からのコラーゲンによるコクと、身の淡白さの絶妙なバランス
  • 口当たり 皮のゼラチン質により、口中にまろやかな余韻が残る

髙山シェフからのレシピ提案

展示会での実演では、髙山シェフはバリオを活用し、フュメ・ド・ポワソン、そしてソースブールブランを作ることにも触れました。フュメ・ド・ポワソンとは、フランス料理などの西洋料理で魚のあらなどを材料として作る、魚の出汁。ソースブールブランとは、バターを使って白く仕上げたコクのあるソースです。髙山シェフは白ワインの代わりに日本酒を使用するレシピを紹介されました。

フュメ・ド・ポワソン

  • 材料 白身魚の骨 5kg、水6L、日本酒1L、塩15g、生姜 140g、昆布 100g
  • バリオ設定 107℃、25分間コトコト火入れ
  • 結果 低温長時間抽出により、雑味のないクリアな出汁を実現

ソースブールブラン

  • 材料
    エシャロット100g、レモングラス10g、日本酒150g、リンゴ酢75g、フュメ・ド・ポワソン360g、バター200g、クリーム 数滴、柚子果汁 大さじ1
  • 調理方法
    1. エシャロットエマンセ(薄切り)、レモングラス、日本酒、リンゴ酢を煮詰める
    2. 煮詰まったらフュメ・ド・ポワソンを入れ、さらに煮詰める
    3. バターモンテ※5し、クリームを入れてパッセ(漉す)。仕上げに塩と柚子果汁を入れる。
  • 香り 魚介の上品な香りに、バターのコクが加わった複層的な芳香
  • 味の構成 エシャロットと日本酒の酸味、リンゴ酢の爽やかさ、柚子の和風アクセント
  • 口当たり バターによる濃厚さと、フォンのさっぱり感が絶妙なバランス
  • 余韻 魚の旨味が口中に長く残り、上品で洗練された後味

※5 バターモンテ……主にフランス料理において、ソースの仕上げとして溶かしたバターを加えること。これにより、ソースにコクや風味などが付加される。

実践例3/卵料理
プリン
~2℃の差で決まる理想の食感~

プリンは舌に触れた瞬間の滑らかさ、香りが重要なポイントです。髙山シェフの実演では、コンビオーブンの庫内温度に2℃の差をつけて調理が行われました。「83℃を超えると『す』(気泡)が入ってしまいます。79℃以下では固まらない。80℃と82℃、このわずか2℃の違いで食感に差が出ます」と髙山シェフは強調します。

卵の温度変性

卵は温度によって以下のような変性が見受けられます。

温度 変化
60~65℃ 卵白タンパクの初期凝固
70~75℃ 適度な凝固による滑らかな食感
80℃以上 過凝固により「す」(気泡)が発生

調理条件の比較

レシピはプリン16個分で、全卵263g、牛乳375g、グラニュー糖68gを使いました。

オーブン庫内温度80℃ オーブン庫内温度82℃
芯温 42℃湯煎、20分後 湯煎58℃到達
芯温74℃
2℃湯煎、20分後 湯煎65℃到達
芯温75℃
調理時間/湿度/風量 20分/100%(蒸し器モード)/1(最弱設定)

調理結果

わずか2℃の違いでも、「とろける系」と「しっかり系」という明確に異なる食体験を生み出すことができます。

80℃設定(芯温74℃)

  • 食感 スプーンを入れると「プルン」と弾むような柔らかさ
  • 舌触り 舌の上でとろけるようで、卵の風味がやさしく広がる
  • 見た目 表面にツヤがあり、なめらかで美しい仕上がり
  • 口溶け 口の中で静かに溶けて消える、上品な口当たり

82℃設定(芯温75℃)

  • 食感 しっかりとした固さで、「ぷりぷり」とした弾力
  • 舌触り 歯で噛む際に適度な抵抗感があり、食べ応えを感じる
  • 見た目 より引き締まった印象で、カットしてもくずれにくい
  • 風味 卵の濃厚な味わいがしっかりと感じられ、満足感が高い

コンビオーブン(スチームコンベクションオーブン)の技術的優位性

同じ食材を用いた調理でも、小さな温度の差により、大きく異なる結果が導き出されることがわかりました。このように意図した食感を再現するには、正確な温度制御が不可欠です。展示会での調理実演でも実際に髙山シェフにご使用いただいたコンビオーブンであれば、正確な温度管理を行うことができ、調理の品質だけでなく、効率も向上させることができます。

精密な環境制御

  • 温度制御 ±1℃の精度で安定した加熱
  • 湿度制御 0~100%の範囲で調整可能
  • 風量制御 食材に応じた最適な熱対流を実現

調理効率の向上

  • 調理を機器に任せている間、他の作業に集中することができる
  • 均一な加熱により、ムラのない仕上がりを実現
  • 数値化された設定により、品質を標準化。誰が調理しても再現可能

人手不足対策としての調理機器の活用

「コンビオーブンやバリオは使い勝手が良く、誰でも効率的に作業が行えます。現在は人手不足の状況が続いていますが、機械を活用してクオリティを落とさずに効率よく作業することが重要です。これまで感覚的だった火加減などを数値化することで、入社したての若手でもすぐに調理できるようにすることが重要だと考えています」という髙山シェフの言葉の通り、現代の厨房では、「感覚的な調理」から「数値化された調理」への転換が急務です。

新人でも即座に高品質な調理ができ、調理時間の短縮と作業効率の向上を実現し、食材ロスの削減と原価管理の最適化を目指す。コンビオーブン(スチームコンベクションオーブン)やバリオの機能を活用することで、これらの目標を同時に実現することができます。現代の厨房運営において、科学的根拠に基づいた高機能の機器選択と調理法の導入は、競争力の維持・向上の必須条件といえるでしょう。温度制御の精度が、料理の品質を決定する時代。 その実現には、信頼できる高い性能を備えた厨房機器の活用が不可欠です。

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