進化を止めない三つ星シェフが語る、
クリエイティブなキッチンとは

後編

Maison KEIのこれからと、
フジマックに求めること

写真/後藤武浩

アジア人シェフとしてパリで初の3つ星を獲得した小林圭シェフ。シェフのクリエイティブを支えるキッチンに求めるレベルはとても高い。2021年1月にオープンした御殿場の「Maison KEI」も、まだスタート地点に立ったばかりだが、その目指すところはまだまだ先がある。真新しい大きなキッチンで小林シェフに、御殿場でやりたいことと、そして未来に向けてシェフ自身が考えていることを語ってもらった。

駆け出しの店が
やるべきこと

自然豊かな御殿場に建つ「Maison KEI」。当然、パリの「Restaurant KEI」とは環境も大きく異なる。ここで表現したいのはどんな料理なのだろうか。

「目の前にある素材はどこからきたのか? その魚はどういう時期に脂が乗るのか? その野菜はどの季節にいい状態になるのか? 料理を食べていただくお客様に、そういう“命”がここに届くまでのことに思いを馳せていただいたり、旬の移り変わりを感じていただける料理。

ここでなら、それをダイレクトに表現できると思いました。海も山も近く、いい食材が手に入りますから。育った場所に足を運んだり、生産者の方の話を聞くことができるので、ここのシェフを任せている佐藤を始めとするスタッフには、生産者のひとたちに“とびきりのものは、ぜひMaison KEIに使ってもらいたい”と思われるような信頼関係を築いてほしい、と話しています」

写真/後藤武浩
写真/後藤武浩

駿河湾で揚がる新鮮な魚介類や地元の畑で採れた野菜が、テーブルを賑わす。昼のコースが4,500円から、夜のコースが5,500円からとは、「三つ星」というタイトルホルダーが手がけるレストランとして破格だ。

「どういうバックグラウンドがあるとしても、駆け出しの店がいきなり高価格を打ち出すのはナンセンスだと思います。“とらや”と“Restaurant KEIの小林圭”が、という見出し的なものはまずは取り除いて、それでもレストランとして価値があると思っていただけるかが重要です。僕たちは自分たちで評価を上げる努力をして、お客様が値段を上げてもいい、と思ってくれる店になりたい」

ちなみに現在は2つのコースのみだが、いずれはコースを増やすことや、アラカルトに対応することも考えているという。

「自分が気軽に訪れて食べたい店にもしたいと思っているので、アラカルトもやりたいし、頼まれれば本当にチャーハンやカレーライスが出てくるかもしれません」

美味しい料理に境界はないし、作る必要もない。その自由な発想こそが、小林シェフが抱く料理への真摯な姿勢なのだろう。

Maison KEIの
拡張できる可能性

写真/後藤武浩

「Maison KEI」ではレストランの要である料理が生まれる厨房が建物の面積の約1/3を占め、多彩な機器を入れている。これも、今後の展開を見据えてのこと、と小林シェフは語る。

「Maison KEIは、当然のことながらこれで完成ではありません。土地自体が広いですから、もしかしたら違う部屋を新たに増設できるかもしれないし、テラスを作りたいと思うかもしれない。長期的にはオーベルジュも……。そんなふうに、いろいろと拡張できる可能性をもたせています。それだけに、厨房機器に関してもフジマックには、現在のラインアップを超えるものを、これからもどんどん提案してもらいたいですね。個人であれ企業であれ、進化しようという向上心と追求心が、プロとしての価値だと思うので。また、多くの料理人とコミュニケーションを取って“こういうものがあるといいよね”と言われたものは、ぜひ形にしてしてもらいたい。それは、特定の誰かだけでなく、みんなのためになりますから」

2020年から2021年と2年連続3つ星を獲得したパリの店は、10周年を迎えるに当たり、建築家・田根剛氏に内装を依頼して大掛かりなリニューアルを敢行。勢いに乗る小林シェフに、現在の“料理人としての満足度”を尋ねてみると……。

「充実はしていますね。一生料理人としてやっていきたいという思いはありますが、いつでもクリエイティブに挑戦する人間であり続けたいと思っています。現時点では、料理が最も自己表現できる方法であることは確かですね。現在こうしていられるのはフランス、そしてフランス料理のおかげですから。日本人である自分がフランスで店を持ち、世界の名だたる人と話すことができて、3つ星を取らせてもらった。それは、僕を受け入れて自分たちの技術を隠すことなく真剣に教えてくれたフランス人と、フランス料理界の懐の深さがあったからです。その恩に報いたい、という気持ちは強いですね」

日本人を代表するフランス料理のシェフとなり、パリと御殿場、2つの拠点で活動していくこととなる小林シェフ。鋭い感性にさらに磨きがかかり、それが投影された料理はゲストを深く魅了することだろう。パリと御殿場、2つのレストランから目が離せない。

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