続・「生き残る」ための飲食店経営術

第2回

「安全・安心」で突き抜ける
店づくりのヒント

飲食店コンサルティング企業・株式会社FBA代表取締役の石田義昭(いしだ・よしあき)氏による「『生き残る』ための飲食店経営術」の続編を3回シリーズでお届けします。第2回は、第1回で繁盛する飲食店の共通点として石田氏が挙げた3要素の1つである「安全・安心」について、詳しく解説していただきます。

第1回で、繁盛している飲食店が兼ね備えている「安全・安心」「本物」「単純」という3つの特徴をご紹介しました。このうち、安全・安心は、お客様が店を選ぶ上での絶対的な条件となってきます。マスク着用や消毒液の使用は当たり前。それだけでは、安心を感じてもらうことはできません。

第三者認証の取得準備を

感染防止について一定の対策を取っている飲食店に対して、都道府県が第三者認証をする動きが進んでいます。今後は、この第三者認証を取得しているかどうかが、店選びの重要な基準となるでしょう。お客様が友人や取引先と会食をする際に、認証を取得している店を選ぶことが、相手に対して配慮をしている証となるからです。

認証の基準は都道府県によって異なるものの、政府は、都道府県に対して下図の要素を必須項目として盛り込むよう求めています。まん延防止等重点措置区域での酒類提供については、政府から下表の内容(「一定の条件」と呼ばれます)を満たした店舗に限り、時間を制限して認めるよう、連絡がありました。同一グループの入店は原則4人以内とすることなどを都道府県に対して求めています。

飲食店の第三者認証を行う
都道府県に対して、
政府が基準に含めるよう求めた必須項目

1. アクリル板等の設置(座席の間隔の確保)

全座席について、下記のいずれかを満たす

  • ① パーティション(アクリル板等)の設置
  • ② 座席の間隔を1m以上確保する

同一テーブル上の正面および隣席との間、並びに他のテーブルとの間に設置
パーティション高さの目安は、目を覆う程度の高さ以上

2. 手指消毒の徹底

店内入口に消毒設備を設置し、入店時に従業員が来店者に呼びかけ、手指消毒を実施

3. 食事中以外のマスク着用の推奨

食事中以外のマスクの着用を、来店客に対して掲示や声がけなどで促す

4. 換気の徹底
  • 建築物衛生法の対象施設は、法に基づく空気環境の調整に関する基準を満たす
  • 建築物衛生法の対象外施設は、
    • ① 換気設備により必要換気量(一人あたり毎時 30m²)を確保する
    または、
    • ② 30分に1回、5分程度、2方向の窓を全開(窓が一つの場合はドアを開放)するなどにより、十分な換気を行う

CO2 センサーなどを使用し、換気状況の把握に努める

実地調査で可能な限り換気状況を数値で確認する


出典:内閣官房、厚生労働省、農林水産省 2021年5月21日付事務連絡「飲食店における感染防止対策を徹底するための第三者認証制度の導入について(改定)」を一部編集

これらの項目のうち、換気について補足をしておきます。換気を徹底するためには、数分間で室内の空気を入れ替える空調設備を導入するのが望ましいのですが、それには数百万円単位での投資が必要になりますし、賃貸の店舗では工事に制約があるはずです。そのような場合、定期的に窓を開けることで対応し、CO2センサーをお客様が確認できる場所に設置し、安全を「見える化」しましょう。CO2センサーは、人の呼吸で室内の二酸化炭素濃度が上昇し、その濃度が一定の基準を超えるとアラームが鳴る仕組みです。「30分に1回、こちらの窓を開けて換気をしています。ご理解をお願いいたします」などと書いたPOPを貼り、対策の実施をアピールします。

感染防止を目的とする設備投資に対しては、多くの自治体が費用を助成しています。これらを最大限に活用して、必要な設備を早急に整えましょう。CO2センサーは1個1万円以下で購入できますが、飲食店に無償で配布・貸与している自治体も多くありますので確認してみてください。

お客様が
感染防止の状況を採点

第三者認証制度は、「認証を受けたら、それで終わり」ではなくなります。政府は、第三者認証制度の質を担保するために、飲食店で感染防止対策が十分に行われているかどうかの情報を、グルメサイトを通じて利用客から収集し、改善指導につなげるフィードバックシステムの構築を目指しています(2021年7月現在)。指導に従わない場合は認証の取り消しもあり得ます。認証を受けた後も、感染防止に取り組む店舗の日常的な状況が、お客様の視点でチェックされ続ける仕組みです。安全・安心についての要求レベルをクリアし続けることが店舗の運営上、当たり前の条件となるわけです。

飲食店第三者認証制度の感染拡大防止対策フィードバックシステム
利用者へのアンケートフォーム

飲食店第三者認証制度の感染拡大防止対策フィードバックシステム 利用者へのアンケートフォーム

出典:内閣官房 新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://corona.go.jp/

融資の返済を視野に入れる

ここで少し、話の角度を変えてみましょう。私は顧問先の飲食店に対しては、コロナ禍が始まってすぐ、支援金や給付金の申請と並行して、できる限り多くの公的融資を受け、運転資金を潤沢に確保しておくよう助言をしました。これら公的融資にはおおむね3年の据え置き期間や利子補給期間があります。できるだけ早く営業を軌道に乗せ、金利支払いが生じるタイミングが来たら、使わずに残っている融資分を繰り上げ返済して、残債を日々の売り上げの中から返済していくと、精神的に追い込まれずに済むと考えたのです。多くの飲食店経営者の方々も、これと同じようなプランを選択しているのではないのでしょうか。

このとき忘れてはならないのが、融資はあくまで借金だということです。現在の店舗は、金利が発生するおよそ2年後に、返済の原資となる利益を安定的に出していくために必要な設備が整っているでしょうか。返済する必要のない支援金や給付金が手元に残っている場合も含め、今後の店舗運営に必要だと感じたハードを揃えるために手元の資金を使う選択があってもよいと思います。

機械に置き換えられるものは、
機械に

投資する対象は、言うまでもなく、「将来の売り上げや利益を生み出す見込みのあるところ」です。前述したとおり、これから「安全・安心」はお客様が飲食店を選ぶ上での重要なポイントとなります。であるならば、「安全への気遣い」のレベルをワンランク上げ、店の売り物にできるレベルまで高めるために投資をすれば、手元の資金が“生きたお金”になります。また、今はコロナ禍で状況が緩和されていますが、フードサービス業界は慢性的な人手不足業種です。日本は生産年齢人口が減少し、働き手の確保は困難になっていきますので、せっかくのスタッフが付加価値の高い仕事に集中できるように、「機械に置き換えられる仕事は機械に置き換える。そのために投資をする」という発想も大切です。

例えば、入店時の体温測定は、当面、フロアスタッフのルーティン業務となります。ただ、写真にあるように、ハンドタイプの計測器を持ったスタッフがお客様の体温を測る方式では、お客様が来店する度に、スタッフが接客を中断して入口に足を運び、測定をしなくてはなりません。計測値が基準を超えているお客様の中には、バツの悪さなどから「今、暑いところを歩いてきたから」「走ってきたので体温が上がっている」などと食い下がる人が出てきます。いきおい、接遇に長けた優秀なスタッフが対応しなければならず、この間、店内のサービス水準が低下してしまいます。当のスタッフにとっても大きなストレスになります。

であれば、思い切って体温を自動で測定する、スタンド型の測定器を購入すればよいのではないでしょうか。基準値を外れた温度を検知すると、アラームが鳴る仕組みです。不思議なもので、自動測定でアラームが鳴ると、対面による測定では食い下がるお客様も、「あら、ごめんなさい。また来るね」と、自分から退店してくれることがほとんどです。

次に投資効果が高い場所がトイレです。ここは店舗を訪れたグループの誰かが必ず利用します。できればどこにも触れることなく後にしたい場所でもあります。人の入室を検知すると、便座の蓋が自動で開閉する、センサータイプの便座にすると、お客様に大変喜ばれます。スペースに余裕があれば、折り畳み式のおむつ交換台も設置すれば、乳幼児のいるファミリーや3世代のグループ客などから「子どもと一緒でも安心して店を利用できる」と評価されます。「将来の売り上げ」を生むお客様が、その店を積極的に選ぶ理由になるわけです。

安全・安心に対する
店の姿勢を見せる

安全・安心な店づくりの投資では、お客様の口に入る食材を扱う厨房にも目を向けましょう。特に24時間稼働し、営業時間中の開閉が頻繁に発生する冷蔵庫は、食材の安全な取り扱いを担保する要となる機器です。修理を重ね、古い冷蔵庫をだましだまし使い続けている店舗の場合、最新型に変える好機ではないでしょうか。空調と同様、業務用冷蔵庫の省エネ性能は年を追うごとに向上していますので、光熱費の削減も見込めますし、近年は取っ手のない、スタイリッシュな製品が増えています。見た目の美しさだけではなく、清掃のしやすさにも配慮していますので、オープンキッチンの店舗や、客席から見える場所に冷蔵庫を設置している店舗は導入を考えてよいと思います。

安全・安心に関する装置の導入は、それ自体が店の姿勢の表れですから、お客様の安心材料となります。「一事が万事」という言葉があります。「きれいな冷蔵庫から食材を出しているのだから、まな板もまめに消毒し、食材を適切に扱っているに違いない」「接触しないで済む装置をいろいろと揃えているということは、見えないところでも感染防止に努めているに違いない」と、信頼をしてもらえるわけです。

食事の場にふさわしい
照明を整える

対象を安全・安心に限定せず、店舗全体で設備投資を検討する場合は、店舗の雰囲気を大きく左右する照明を見直してみましょう。店内の明かりが青白い光の蛍光灯では、お客様は興ざめです。客席と通路で照明の雰囲気を変えましょう。最近は「〇〇映え」と言われるように、きれいな料理やデザートを写真に撮ってSNSに載せるお客様が増えています。テーブルの上で料理が美味しそうに見えるかどうは非常に重要です。

客単価や料理の分野にもよりますが、基本的に、通路は色温度が2700k(ケルビン)程度で色温度の低い「電球色」にすると、お客様の気持ちが落ち着くといわれています。対して客席は、料理がおいしく見えるように、晴天の昼間の太陽光に近い5000k程度での「昼白色」が基本です。メーカーによっては、料理がよりおいしそうに見える3500k程度の「温白色」ライトも販売しています。色温度の感じがよく分からない方は、デパ地下に足を運び、天井を見て、ショーケースの料理に当たっている光の色味をチェックするとよいでしょう。料理がおいしそうに見えるように、どの店も工夫をしています。

最終回となる次回は、年末に向けての集客や販促についての視点をご説明したいと思います。

第3回「お客様の『共感』を意識した販促を」に続く 続きを見る