続・「生き残る」ための飲食店経営術

第1回

明るい変化に目を向け、
本格再開に備える

飲食店コンサルティング企業・株式会社FBA代表取締役の石田義昭(いしだ・よしあき)氏による「『生き残る』ための飲食店経営術」の続編をお届けします。コロナ禍の長期化を踏まえ、飲食店が再始動する上での心構えと具体的な施策について、3回にわたってポイントを解説していただきます。

第1回は、2021年夏の時点で収束に至っていない新型コロナウイルス感染症拡大がもたらした、フードサービス業界を取り巻く環境の変化と、飲食店経営者が見通すべき将来、そして、本格的な営業再開に備えて確認すべき店舗運営の基本について語っていただきました。

コロナ禍によるフードサービス業界の苦境が長期化しています。2021年はまともに営業できた日が1日もないという店舗がほとんどのはずです。緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置が発令されていない地方都市でも、人通りが途絶えています。

下の表は、経済産業省が集計している第3次産業の活動指数です。フードサービス業は、基準年である2015年の売上高(統計上は「生産」)を下回っている業態がほとんどです。好調なのは、テイクアウト需要を取り込めているファストフードのみ。営業時間が制限され、酒類提供も制限されている居酒屋は、ほとんど商売になっていない状況がうかがえます。

飲食サービス業の生産活動推移

飲食サービス業の生産活動推移
経済産業省 第3次産業活動指数
飲食サービス業の小分類(季節調整済み)

市民の視線が変化し、
美談が消えた

ここまで理不尽な日々が長引くとは想像できなかった方が大半なのではないでしょうか。私自身もその一人です。そして、コロナ禍が長期化する過程で、飲食店とお客様との関係に好ましくない変化が生まれてしまったことに心を痛めています。

「一生懸命やっていますが、お客様が減って苦しいです」――。2020年春、こんなチラシを配布した地方都市の飲食店がありました。正直な商いをしている店でしたので、すぐに、お客様が次々と店に足を運びました。常連客の応援が、コロナ禍を乗り切る活力となると思われました。ところがその後、客足がピタッと止まってしまいます。

一連の事態を受けて飲食店に補償金が支払われることになり、「普段の売り上げを超える補償金を手にして、“焼け太り”になった飲食店がある。そのお金で高級車などを買っている」という報道が流れたことがその原因でした。飲食店を見る消費者の目が変わったのです。「だって、飲食店には補償があるんでしょう?」。口にするかどうかは別にして、この言葉の裏には、なぜ飲食店だけがお金をもらえるのかという、制度への不満があります。人流だけでなく、フードサービス業界から美談がなくなり、店を支持してくれていた消費者との間に嫌な溝ができてしまいました。

生き残った皆様、
もうすぐです

「うちの店は補償金をもらっていない」「営業時間や業態などが基準に合致しないので、支援金・給付金の支給対象とならなかった」「店の規模に比べて、受け取った給付金の額が少なすぎる」――。濡れ衣ともいえる風評を前に、切ない思いをしているオーナーさんが多数だと思います。我慢のゴールが先延ばしになっている状況に気持ちが切れそうになっている方も多いでしょう。

ただ、隣の芝は永遠に青いものです。理不尽や不幸を嘆いていても、前には進めません。そのような皆様に、私はあえて前向きなことを申し上げたいと思います。前回の連載で、「とにかく生き残りましょう」とお声かけをしました(→「生き残る」ための飲食店経営術)。このコラムをご覧いただいている方々は、リーマンショック時を上回る勢いで外食企業が倒産し、飲食店の閉店が相次ぐ中で、今日まで生き残ったのです。もうすぐです。感染の状況に応じて一進一退になるとは思いますが、夜はこれから必ず明けてきます。これまでの踏ん張りが報われる時が来ます。

経済活動や人々の暮らしは、具体的な数字を伴って、回復に向けて動き出しています。毎日、100万人を超えるペースでワクチンの接種が進んでおり、64歳以下への接種も始まっています。これは今年の年初にはなかったことです。

2人以上世帯の月別一般外食支出(外食支出から学校給食を除いたもの)の推移

2人以上世帯の月別一般外食支出(外食支出から学校給食を除いたもの)の推移
(総務省家計調査より)

家計にも外食に使えるだけのお金がじわじわと貯まっています。長らく旅行を我慢し、スーツなど外出用の洋服への支出を減らし、勤務先での外食や会食を控えてきたことによるものです。政府の強い要請によって携帯電話通信料の引き下げも行われました。ご承知のように、外食費と携帯電話などの通信料は、消費者の可処分所得を奪い合う関係にありました。その通信費が減る見通しとなったことも、外食にとっては追い風となります。

「自粛疲れ」という言葉があり、緊急事態宣言などが解除されると繁華街などに人が押し寄せることでも分かるように、消費者もレストランで誰かと食事をしたい、ルールを守った上でお酒を楽しみたいと考えています。しかも、家計には、外食に回すお金がたまっています。ですから、ワクチン接種が進み、感染や発症のリスクが低下してくれば、お客様は飲食店に戻ってきます。良い方向に向かうまで、あともう少しです。

繁盛店の特徴は3つ

では、その来るべき日に備えて、どのような準備をすればよいのでしょうか。以前お話しした内容とは視点を変えて解説をしたいと思います。繁盛している飲食店には3つの特徴があります。「安全・安心」で、「本物」を提供する、「単純」な店であることです。

安全・安心は飲食店経営の基本です。ただ、コロナ禍によって、安全・安心についての要求水準はより高くなっていますので、これについては次回に詳しく説明します。「本物」は、素材や味付け、調理法などにこだわった料理を、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たい状態で、最高のサービスによって提供するということです。テイクアウトやデリバリーでは代替のできない、店内喫食ならではの醍醐味を味わえる店にお客様が集まっています。吟味された、トレーサビリティが確かな食材を使って、他人が真似しにくい、あるいは熟練度が高い技術で料理を仕上げている飲食店が消費者から選ばれています。

お客様に支持される店の3条件

お客様に支持される店の3条件 お客様に支持される店の3条件

今の消費者は、
だまされたくない

そして、3番目の特徴が「単純」です。単純とは、美味しい、ボリュームがある、ネーミングが理解しやすい、盛り付けの見栄えが良いなど、売り物が明確で、シンプルに分かりやすいこと。こうしたシンプルなものが、お客様の心にはまってヒットします。

今の時代、分かりにくいもの、理解しないものは売れません。消費者は、ネットで検索をして機能や評判を調べ、実店舗で確かめてから買い物をする時代です。その背景には、「だまされたくない」「外したくない」という心理があります。ということは、メニュー名を聞いて理解できない料理や、味をイメージできない料理は検討の対象に入りません。オリジナル料理を作ったときに、凝りに凝った名前にして注文が伸びないというお店は、この落とし穴にはまっています。店のメニューをゼロベースで点検して、店内のメニューから分かりにくさを排除しましょう。

特に、POPや黒板でアピールをする、旬の食材やお勧めメニューには注意が必要です。例を示しましょう。和食店や居酒屋であれば、「天豆」を漢字だけで表示していませんか。読み方が分からない人は、同席者の前で読み方を間違えて恥をかきたくないですから、頼みません。「そらまめ」とルビを振ってあげましょう。「のれそれ」は、どのようなメニューなのかを知らない人の方が多いため、「アナゴの稚魚です。春の訪れを告げる珍味です」などと説明を加えるのです。まずはこのレベルから、分かりやすさを追求しましょう。

定番メニューや、売りたいと思っているメニューは、お客様の心に刺さる、より分かりやい表現がないかどうかを検討してみてください。「五目焼きそば」は、「具だくさん焼きそば」として、「アツアツのあんかけが、色とりどりの具材にトロッとかかっています」と説明を加えた方が、頼みたいと思うお客様は増えるはずです。

客席でセールストークをし、注文を誘導するのが接客の醍醐味だと感じるかもしれませんが、今や「黙食」が良しとされる時代です。積極的な会話を嫌うお客様もいます。注文時に尋ねられることの多かった情報は、あらかじめメニューブックなどに書き、お客様が頼んでみたいと感じる情報を提供しましょう。

先ほど申し上げたように、それが誤解に基づくものであったとしても、お客様は飲食店に対して複雑な感情を持っています。ですから、美味しい料理を、いいサービスで提供するだけでなく、コロナ禍を通じて実施した感染予防の対策や新メニュー、店の思いなどは、掲示物やテーブルPOPなどを利用してきちんとアピールしましょう。久しぶりに来店したお客様が、「ああ、やっぱりこの店はお客のことを考えているいい店だ」と再認識し、また通おうと考えてもらうよう、店の姿勢を伝えるのです。共感を取り戻し、常連客を作り直すぐらいの気構えで営業の本格再開に備えましょう。

第2回「『安全・安心』で突き抜ける店づくりのヒント」に続く 続きを見る

講師紹介
株式会社FBA代表取締役
 フードビジネスコンサルタント
石田義昭(いしだ・よしあき)
経営コンサルタント歴30年。「無敵の飲食店づくり」をテーマに経営支援を全国で行なっている。「顧客誘導と飲食店経営」を理論体系化し、顧客心理に訴える具体的な戦術指導には定評がある。3~5坪の小さな店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超え、顧問店の中から超繁盛店・多店舗展開企業などを数多く輩出している。USJ隣接の商業施設「ユニバーサル・シティウォーク大阪」内「風神雷神」、東京ドーム「ラクーア」飲食施設、大洗リゾートアウトレット飲食施設など大規模な商業施設のプロデュースも手掛ける。

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