「生き残る」ための飲食店経営術

第1回

ウィズコロナの今、
絶対にすべきこと

講師は石田義昭(いしだ・よしあき)氏。フードサービスコンサルタント歴30年以上で、飲食店コンサルティング企業の株式会社FBA代表取締役。顧客心理に訴える具体的な戦術指導に定評があり、小規模店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超えます。アフターコロナを見据えた、ウィズコロナ時代に飲食店が生き残るために必要な心構えと具体的な施策について、3回にわたってポイントを解説していただきます。

第1回は、想定以上に長期化し、社会経済的な影響が深刻化している新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえ、飲食店経営者がどのような認識を持つべきか、今、どのような施策に着手すべきかについて、熱く語っていただきました。

更新日:2020年10月19日

よく、「ピンチをチャンスに変える」とか「コロナに勝つ」などと言う人がいます。しかし、飲食店を取り巻く環境はそれほど甘くはありません。倒産件数が数百件などという報道もありますが、自主廃業や、6店舗のうち5店舗を閉めたといった例は含まれないために、実際にはその数十倍の店が倒れています。飲食店のオーナーさんたちは、皆、必死です。

私は、今の状況に対峙する覚悟を持ってもらうため、顧問先のオーナーさんたちに対して「今は戦争中だよ」と言っています。「茶色いレンズの眼鏡を掛けて、街を見たつもりになってごらん。建物が壊れていないだけで、焼け野原になっている。この中で生き残ることを考えていかなくちゃいけない」と。ウィズコロナでの心構えは、「勝つ」のではなくて「負けない」ことです。勝つ必要はありません。負けていく店がこれからさらにたくさん出てきますから。生き残っていることこそが大切なのです。

ランニングコストを削れるだけ削る

では、生き残るためにどうするか。このご時世に売り上げを増やすなんてことは考えない方がいい。まず、細かいことに一生懸命取り組んで、ランニングコストを削れるだけ削って、とにかく損益分岐点を下げる。その下がった損益分岐点で商売を組み立てていくのです。

ランニングコストを引き下げるためには、あらゆる努力をしましょう。家賃の支払い猶予や引き下げの交渉はしましたか。大家さんも高い家賃をもらい続けられるとは思っていませんし、あなたの店が出てしまったら、よほどの好立地でない限り次の店子がすぐに入る当てはないはずですから、戦々恐々としています。店を続ける意思があることを伝え、協力を要請するのです。「3月に交渉したけれどダメだった」という人も、当時と今は状況が違います。あきらめずに、もう一度、話をしてみましょう。

「あらゆる努力」をするのですから、これまで見過ごしてきた経費にも目を向けてください。クレジットカードや電子マネーといったキャッシュレス決済のポイントを取り返す努力をしていますか。

便利でポイントもたまるので、キャッシュレスでの支払いをする消費者が増えています。一般的な店で、カード決済比率は20~30%、手数料3.5~4%という感じだと思います。月商500万円で150万円がカード決済だとすれば、手数料3%なら5万円ぐらいを手数料として店が支払っていることになります。これはアルバイト1カ月分の給料に相当する額です。今、その金額の大きさが分かっていると思います。

飲食店のオーナーは、経営者であると同時に、消費者でもあります。自分の日常の支出をカードや電子マネーに集約させて、店舗運営で払った手数料の一部をポイント還元で取り返しましょう。

飲食店は一般家庭と比べて光熱費が高額です。変更届ハガキを書くだけで、これをカード払いに変更できます。診察や入院でも、カード払いにできる場合がほとんどですし、年金も今はカード払いができます。

還元率の高いゴールドカードを1枚持って、それに支払いを集約させる。1円でも安く仕入れ、100円でも多く売ろうと店を切り盛りするのよりも少ない労力で取り返せるお金があるのです。捨てておくのはもったいない。使った額の数%から1割程度、年間では数万円単位のお金がポイントとして戻ってくるはずです。

生き抜くために、支援を受け入れる

生き残るために二番目にやること。それは資金を含めた、官民の支援を受け入れることです。「プライドが許さない」「こういう大変な状況は何度も経験してきた」と言う人もいますが、今回のコロナ禍は今までとは深刻度がまるで違います。GDPが28%もマイナスになる(2020年4~6月の2次速報値の年率換算)っていう状況は起きたことがありません。リーマンショックどころではなく、まさに戦争中と同じ状況だという認識が必要です。

外食産業の前年同月比売上高

出典:日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査」

税金を真面目に払ってきたからこそ、今回は政府の持続化給付金や行政の感染防止の協力金をいただきましょう。県や市、区といった地元の行政も独自の補助金、助成金を揃えています。これらを利用しない手はありません。

例えば、東京都足立区には「小規模事業者経営改善補助金【新型コロナウイルス感染症対応特別枠】」という補助金があって、コロナ対策備品であるパーテーション、空気清浄機、デリバリー用バイク、さらにはマスクや消毒液に至るまで、購入額の5分の4が補助されます(補助上限20万円。予算に達すると終了)。

「税理士から何も教わっていない」なんて言ってはいけない。税理士さんも補助金手続きの依頼が殺到していて、それらを捌くのに手一杯です。個別に声掛けをしている暇なんてありません。自分で動くことです。

事情があって社会保険や雇用保険に加入していないお店もあるでしょうが、そういう店でも使える支援がありますから、商工会に足を運ぶ。「助成金や補助金の資料をください」と言うと、パンフレットをごっそりとくれますよ。その中から自分の店で使える制度を探すのです。

お客様が支援をしてくれる民間の制度もあります。甲信越の飲食店オーナーは「地元のクラウドファンディングで150万円支援をいただいて本当に助かった」と言っていました。今はレストラン紹介サイトでも、一定期間は手数料無料でテイクアウトの受付をしてくれます。行きたい店のチケットを先払いで支払って応援するクラウドファンディング的なサイトもあって、その先払いの手数料をサントリーさんが負担してくれる支援(サントリー×「さきめし」飲食店応援プロジェクト!)もあります。

こうした官民の支援策を調べて活用するのです。自分や家族、働いている人たちを守ることにつながるのですから、支援を受けることを恥と捉えるのではなく、「生き残って必ず恩返しをする」という腹づもりで利用する。生き残って多くのお客さんに喜んでもらい、稼いで税金を納め、自分や家族が豊かに暮らす日を取り戻すための支援です。自分のプライドはいったん脇に置きましょう。

安心・安全を「見える化」する

1年前を思い出してみてください。従業員がマスクをしていたら「お客をバイキン扱いするのか!」などと怒り出すお客さんがいましたよね。それが今はどうでしょう。「この店のスタッフ、マスクしていないの?」「店頭に消毒液を置いていないの?」です。

私が手にしているこのフェイスシールド(写真参照)は、銀座の鳩居堂さんが販売しているもので、接待を伴うお店で人気だそうです。さまざまな種類のマスクやフェイスシールドが開発され、それを身に着けることが当たり前の社会になりました。消費者の意識だけでなく、行動も新様式に変わったのです。この変化を受け入れ、対応しないといけません。

そういう中で 今やらなければいけないことの三番目は、安心・安全の「見える化」です。

男性3人で客単価8000円の和食店に入ったときのこと。着物姿のスタッフが、感じの良い笑顔で私たちを迎えてくれました。ただ、マスクをしていません。同行者の1人がそわそわし始めました。「厨房もマスクをしていない。急用ができたことにして、店を替えません?」と。

もしかしたら、この店の経営者は、「うちは衛生に人一倍気を使っている。マスクなんて着けたら失礼だ」というポリシーだったのかもしれません。でも、そのポリシーは、たった1枚のマスクに負けてしまった。8000円×3人=3万円弱がパーです。料理が美味しくても、今は代わりの店がいくらでもあります。まずい店は半年持たずに潰れるのですから、「どの店も美味しい」のです。

次に入ったのは、マスク着用、客席に仕切りがある店でした。「おっ、カスターセットにも『ご自由にお使いください』って消毒液が置いてある」。もう、おじさんたちはメロメロです。食べる前から美味しい(笑)

安心・安全の見える化とはどういうことか。ほかにも例を挙げましょう。都内のロードサイドのチェーン焼肉店の懸垂幕に、こんな表示がありました。「4分ごとに店内のすべての空気が入れ替わります」。子ども連れのお客さんは、これを見て店に入ることに躊躇がなくなるでしょうね。安全を具体的に数字で見せる。フェアのメニューではなくて、安全が、それと同等以上の売り物となって威力を発揮する時代になっているのです。アフターコロナでもこの流れは変わらないでしょう。

お客様に「この空間なら安全」と感じてもらう

個人経営でも取り組むことができます。首都圏のあるとんかつレストランは、安全の見える化を徹底して良い営業成績をキープしています。

入り口に設置したのが、体温とマスク着用の有無を自動で検知するタブレット型端末。マスクをしてない人がセンサーの前に立つと、「マスクを着用してください」という自動音声が流れて注意を促します。スタッフが直接注意をすると角が立ちますが、機械の音声だと気まずさが和らぎ、「あ、クルマに戻ってマスクを取って来なきゃ」となります。

入り口の正面には感染防止対策の宣言書を掲げてあって、「従業員の検温、靴底の消毒」「客席の消毒」「客席のソーシャルディスタンス」など、店で実行していることを分かりやすく説明しています。宣言書は店のfacebookにも載せてあります。店内には至るところに空気清浄機も設置してあります。

「この空間なら安全だ」と安心してもらうために、できることをやり切る。その取り組みを、設備や書類など、見える形にして、お客さんに伝えるのです。自治体が発行するポスターやステッカーを貼ってお茶を濁すやり方とは、お客さんの受け止め方はまるで違います。

「こういうふうに安全に取り組んでいます」という中身を見せることでお客さんの「安心」に変わっていく。安全・安心にそこまでの投資はできないと「やらない理由」を口にするのではなくて、先ほどご紹介した公的な補助金を活用して、生き残る態勢を整えるのです。

今回は心構えを中心にお話ししました。実際に店の売り上げはどう確保していくのかについての関心が高いことも承知しています。次回は、多くの店が取り入れているテイクアウトとデリバリーについて、その落とし穴を含めて解説します。

講師紹介

株式会社FBA代表取締役 フードビジネスコンサルタント
石田義昭(いしだ・よしあき)
経営コンサルタント歴30年。「無敵の飲食店づくり」をテーマに経営支援を全国で行なっている。「顧客誘導と飲食店経営」を理論体系化し、顧客心理に訴える具体的な戦術指導には定評がある。3~5坪の小さな店から大型店まで、直接指導店舗数は1,500店を超え、顧問店の中から超繁盛店・多店舗展開企業などを数多く輩出している。USJ隣接の商業施設「ユニバーサル・シティウォーク大阪」内「風神雷神」、東京ドーム「ラクーア」飲食施設、大洗リゾートアウトレット飲食施設など大規模な商業施設のプロデュースも手掛ける。

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