緊急提言 フードビジネスのための新型コロナ時代の厨房衛生術

HACCP講座の坂場一昭氏に
インタビュー

5月26日「新型コロナウィルスによる感染症対策」としての全国の緊急事態宣言が解除されました。日本経済全体が厳しい状況の中、フードビジネス、特に飲食店は大変厳しい状況に追い込まれています。少しずつ営業を再開するにあたって、国が推奨する「新しい生活習慣」にどのように対応していったらいいのか悩まれている皆さんも多いと思います。

そんな中、(社)日本フードサービス協会(http://www.jfnet.or.jp/)から5月14日に「外食業の事業継続のためのガイドライン」が出されました。内容は外食事業者に向けたものですが、中食やその他フードビジネスに携わる人たちにも重要な示唆が含まれています。その冒頭には、

「外食業は業種・業態が多岐にわたりその多くは中小事業者や個人事業者によって運営されており、営業時間短縮や外出自粛の要請の中で自主的な休業を余儀なくされ、甚大な影響を受けていますが、困難な状況下にあっても、外食事業の変わらぬ理念は、お客様に安心してご来店いただくとともに、従業員や家族が安心できる職場を確保することです。」(抜粋)

としたうえで、非常に細かい手順が続きます。

  • お客様の安全
    入店時
    1. 客席への案内
    2. テーブルサービスとカウンターサービス
    3. 会計処理テイクアウトサービス
    4. デリバリーサービス
  • 従業員の安全衛生管理
  • 店舗の衛生管理

Q&Aでは、例えば、「火を使う(コンロ、喫煙スペース)近くでは、顧客間などの隔離のためにアクリル板は使用しない、」など。

しかしこれらはあくまでもガイドラインで、実際には「店舗の実情に合った創意工夫」が求められます。ガイドライン通りにすべてを準備できればそれに越したことはないのですが、実際に事業を再開するに当たり、どこにポイントを置けばよいのか。

そこで今回は、Fujimakキッチンコンシェルジュ緊急提言「フードビジネスのための 新型コロナ時代の厨房衛生術」と題し、2019年に同じくFujimakキッチンコンシェルジュ「今さら聞けないHACCP講座」で解説いただいた、坂場一昭さん(元ハイアットリージェンシー東京 調理部長、全日本司厨士協会幹事会員ほか)に、このガイドラインを読み込んだうえで、今外食事業者が考えねばならないポイントをお聞きしました。まず語られたのは、食事という文化を守り抜く覚悟でした。(以下インタビュー)

更新日:2020年06月02日

食事は文化だ!

FKC:大変な時代になりました。新型コロナウィルスは人が接触しなければうつらない、会話をしなければうつらないという外食事業者にとっても厄介な感染症です。しかしこれでは外食業はやっていけないし、人々の大切な食事をする楽しみが無くなりますよね。「新しい生活様式」にフードビジネスはどう対応すればよいかを今日は伺います。

坂場(以下敬称略):極論すれば、感染防止のためには店を開けないことが一番の防御法です。次は、専門家が言うように、たとえ家族5人で来ても1.5m離れて横に並んで座り、あまり会話しないで食べる。しかしこれは現実的ではありません。これでは食事という文化が壊れてしまう。外食の文化は大切で、食事中会話しないなんてありえないと私は思います。国が緊急事態宣言を解除したということは、感染防止に努めながらも少しずつ経済や日常を取り戻しましょう、ということです。ただ新型コロナウィルス感染防止に関しては、国も自治体も個別の解を出してくれません。どうすればうつるのかどこでうつるのかも、大分わかってきたけど、店には予約性もあれば不特定多数を相手にする業態もある。鍋も焼き肉もあります。だから自分たちで個別の対策を考えなければいけないですね。

FKC:日本フードサービス協会のガイドラインも、みんなで考えていきましょうと(店舗の実情に合った創意工夫)。たしかに食事は団らんやコミュニケーションの糧。その上で感染を防ぐポイントは。

坂場:まずは絶対に自分たちが感染しないという覚悟が必要だと思います。店側の自分たちが感染者でなければお客様にうつす心配はない。次にお客様からうつされないこと。お客同士を感染させないこと=クラスターを作らないことを考えていけますから。

そのためにまず、従業員の健康管理です。従業員が感染しないようにする。お互いの健康チェックをする。大事なのは何のためにするかをみんなが理解することです。マスクは何のため。手洗いは何のため。自分たちがどうすれば、自分たちとお客様をウィルスから守れるか。

理念的な話で恐縮ですが、たとえば、日本中でハンドドライヤーが使用禁止になりましたね。私は前から疑問に思っていたのですが、あれは利用者すべてが十分に、清潔に手を洗ったことを前提に使われないと、ウィルスや菌が拡散する恐れがあります。だから今はすべて使用禁止になってしまった。自分のお店でも、結局一人でも手をきれいに洗っていない従業員がいると周りにうつす可能性が出てくるのです。理念の共有はとても大事だと思います。その上でお店を再開していただきたいですね。

やれる方法を考える(やれないことを考えてもやれない)

FKC:では従業員の健康管理はどのようにすればよいでしょう。

坂場:やはり今こそHACCPです。従業員の衛生管理はHACCPを順守することで十分だと思いますよ。HACCPの手順に沿って行動すること。入場時は、まず外からウィルスなどを持ち込まない。

FKC:HACCPに準じて入場した、と、その次は。

坂場:危害要因をもう一度確認することですね。つまり、自分たちの厨房を見回して、どの場所に菌やウィルスが付着しやすいか、どの工程で菌やウィルスを付着させる可能性があるか、などを探すことが最初の作業でしょう。自分の事業所が三密になってしまう原因を分析し、対策を講じることがまさにHACCPでいうところの危害分析です。 その上で、可能性をひとつひとつ潰していく。たとえば、厨房と顧客スペースにドアがある場合、ハードで解決するなら自動ドアで非接触にすべきです。でも簡単ではないですよね。ではソフト(工夫)でどう解決(接触を減らす)していくか。洗浄ボトルは汚れた手で触りますよね。水道の蛇口もそうです。毎回濯ぐのは大変だけど、ではどうするか。業態や規模が違うのにこれだ!っていうやり方はありません。当然ですが変化・改善が必要です。できないルールを作るのではなく、しっかり考え自分たちに合った方法を考える。日本フードサービス協会もみんなで考えていきましょうといっている。もっともだと思いますよ。

FKC:来年7月から施行されるHACCPには、新型コロナウィルス対策を考慮して作られていませんよね。

坂場:もともとノロウィルスでさえHACCPには最初入っていなかったのです。ベースとなっている米国のコーデックス(食品の国際規格 公益社団法人日本食品衛生協会 www.n-shokuei.jp)では、かつては日本だけのものと思われていた節もあります。以前にクルーズ船で同じような時期にノロが発生したことがありました。それで食品事故の対象になったのですが。ですから新型コロナウィルスも勿論HACCPは対象に入っていません。もっというと、そもそもHACCPには最初アルコールも入っていなかったのです。ノロウィルスにアルコールは効かない。ノロウィルスには手みたいなエンベロープといわれる突起部分がなく、アルコールはエンベロープに作用しますがノロウィルスの核部分には効かないそうです。次亜塩素水は効く。ちなみに米国ではアルコールをなぜか嫌がるそうです。オリエンタルランドでは当初アルコール使わず次亜塩素水を使ったそうです。現在はわかりませんが。

HACCPが基本、それに何を加えるか

FKC:ではこのウィルス対策ではHACCPに何を加えたらいいでしょう。

坂場:くどいようですが、厨房環境衛生はHACCPの順守が大前提になります。加えて感染症対策。とにかくクラスターを作らないことが第一です。もともとHACCPには感染症は基本考えられてなったのですが、飛沫感染をどうやって防ぐかが重要ですね。特に客席の空気の流れが重要です。換気と循環は違いますから。あくまでも換気が大切です。その上で店内の3密を防ぐことです。最近ではお客様にフェースマスクをしていただくお店が出てきましたが、飛沫感染を防ぐには必要なのでしょうけれど、私たちは慣れなければいけないのでしょうかね。ほんとにワクチンと特効薬の完成が待たれます。

FKC:厨房内での飛沫感染対策はどうでしょう。

坂場:先日、レストランをやっている後輩から相談があったのですが、コックさんのマスクはどうすれば、というものでした。これが難しいのです。コックは味見をします。また匂いも大切な情報です。コックさんがその都度マスクを手でつかんで外すのはなかなか現実的ではないですね。飛沫感染を防ぐなら、フェースマスクやマスクよりも、スーニーズマスク(プラスチックマスク)も利用できるのではとも思います。どこまでが必要か(医療関係者ではない)自分たちで考えるしかないようです。

FKC:先ほど次亜塩素水の有効だという話がありましたが、これからは食中毒に特に気を使わなければいけない季節に入りました。HACCPを順守し、食の文化を守るという覚悟を持った上で、ウィルスに対抗する、何か武器になるものがありましたら紹介していただけませんか。

坂場:HACCPに加えるのは3密対策ですが、それでも洗浄は重要です。ただどこに洗浄しなければならない場所があるかを見直したうえで、アルコールで消毒されると思うのですが、アルコールが入手しにくくなってきた現在、次亜塩素水を使うことは、食中毒にも新型コロナにも有効です。ほんとにいいです。いろんな次亜水がありますが、微酸性電解水(次亜水)効果が高い。それにすごく弱い薬なので、手も荒れないけど、有機物にあたると水に戻っちゃう性質があります。食材などを洗う時、有機物に当たると菌を殺して水に戻る。だから流水を使うのがポイント、フレッシュな次亜水に効果があります。フジマックでも売ってますよね(※ピュアスターミュークリーン)。

他には殺菌庫や消毒保管庫もより安心を支えてくれます。ただ包丁、まな板ならこれで十分ですが、紫外線による殺菌は、置き方によって紫外線が当たらない部分ができるとそこは殺菌できませんので十分注意してください。それと洗浄した後、しっかり乾燥させないと紫外線は効きませんので、注意してください。ボールやトレーなどは熱消毒で十分です。ハードとソフト新型コロナ対策。知恵や工夫とともに、余裕があればハードに任せることも選択肢の一つですね。

FKC:再開に向けて歩き出すことができたのは明るいニュースですが、当たり前の売り上げに戻るまでには、まだまだ忍耐の時間が続きますね。HACCPの伝道師として、改めて皆さんにお伝えしたいことがあれば、お願いします。

坂場:少し前に、ホテルのドアマンが感染したニュースがありました。私はすごく心配したんですよ。もしお客さんからうつっていたらどうしようと。結果そうではなかったのでよかったのですが、もし来店したお客さんから新型コロナウィルスに感染したら、外食事業なんてできませんよね。まず、親御さんが反対して従業員が集まりません。オーナーは廃業を考えるでしょうね。それでも、事業を再開するにあたってぜひ考えていただきたいのは、

○なぜ再開するのか。勿論生活のためでしょうけれど、お客さんに喜んでもらわなければ続けることはできません。喜びと文化を支える心構え=食に取り組む姿勢を新たにしていただければありがたいです。

○何でマスクをするのか、フェースガードをするのか。なぜ手を洗うのかはその原点を抑えていれば、その場その場での対応をできるはずです。

ほんとは席数減らすなんてやりたくないですよね。席数三分の一では採算が取れるかといえば厳しい。しかし今は、HACCPをしっかり実施することにより解決の道が見えてくると思います。これからが本番です。ご自身を守り・事業所を守り・文化を守りましょう。

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講師紹介

元ハイアットリージェンシー東京 調理部長、全日本司厨士協会幹事会員
坂場一昭(さかば・かずあき)
1952年1月東京生まれ。70年から調理の道に入る。京王プラザホテルを経て、80年にセンチュリーハイアット東京(現ハイアットリージェンシー東京)に入社。ガルドマンジェアシスタントシェフ、宴会シェフ、宴会厨房改修プロダクトマネジャーや調理部長、食品衛生担当課長などを歴任。日本エスコフィエ協会会員、全日本司厨士協会幹事会員。

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