試練に立ち向かう同業者へのエール

大変な今こそ、
熱い情熱が
次の「力」となる

上柿元 勝 ムッシュ
(パティスリー カミーユ)

「できること」を考え、
行動に移す

人間は地球の一部をお借りして住んでいます。その謙虚さを忘れて、文明ばかりを追いかけてしまったために、今のような状況を招いてしまったのではないでしょうか。ウイルスが起こるようなことを人間がしたのではないかと思えてなりません。特定の誰かのせいではないかもしれないけれど、人間一人ひとりが起こした人災でもあると捉えた方がいいと感じるのです。

確かに大変な時期です。でも、国が何かをしてくれるわけではありません。ほかの誰かがしてくれるのでもない。「わが(自分)がするんじゃ」。私は自分にそう言いきかせています。人は支え合って生きています。料理人として、できることはあるはずです。できることをできる範囲で、支えてくれる人が喜ぶことをするのです。

私の場合、医療関係者に対して、昨年は840食、今年は700食分の料理、デセールを作ってお届けしました。医療の最前線で、ウイルスと戦っている人たちへの感謝の気持ちです。ほかにも、コロナ対応で電話応対をしている保健所の皆さんにタルトを差し入れたりもしています。甘いものは元気が出ますよね。美味しさと一緒に元気を届けられるのです。料理人だからこそ、できることです。

その時に使った食材は、近所の農家さんから、需要が減って販売できなくなったトマトやズッキーニ、カボチャなどを買ったものです。私の店だって大変ですよ。でも、人は支え合って生きているのです。大切な生産者の方々も、自分のできる範囲で支えなきゃいかんでしょう。

師匠から教わったことを
次世代に引き継ぐ

下がる時はめいっぱい下がればよいのです。人間は悩み、悲しみながら、次の力を蓄えるのです。そしてそこから進めばいい。自分自身に向上心があるかどうかです。熱い情熱が次の力となります。この先、我々はウイルスと共に生きていかなくてはいけません。であれば、コロナがあろうとなかろうと、我々はしなくてはならないことは行動に移すべきなのだと思います。

私自身、料理人になってまだ50年。キャリアの節目を迎えたけれども、料理の世界は奥が深く、まだまだ学ぶことがあります。と同時に、料理という文化を担う者として、20年後、30年後に料理文化を担っていく次世代のリーダーを育てることも使命だと思っています。

3年前から、「Club du TASUKI d’OR」という料理人の会員組織を立ち上げました。これが店に飾る会員章です(写真下)。フランスに行きたくても行けなかった、街場の料理人たちを仲間に入れて、自分たちがフランスのグランシェフから受け継いだものを伝えていく会にします。地位のある人たちの会員組織はたくさんありますが、フランス料理を志しているみんなに夢や憧れを与えることに意味があると思ったのです。

「アラン・シャペル」での修業時代に、鍋を取り合った兄弟子のアラン・デュカスにこの会の構想を話したら、名誉会長になってくれました。副会長は三國清三シェフです。若手を含め、大勢の仲間が汗を流してくれています。年に2回、勉強会をして、日本とフランスを、私たちと次世代とをタスキでつなげていきたいと思っています。皆さんも、今は大変な時ですが、大変な時だからこそ、情熱を注ぐ「次」を見つけ、前に進んでほしいと思います。

プロフィール
上柿元 勝(かみかきもと・まさる)ムッシュ

1950年鹿児島県生まれ。辻学園日本調理師専門学校卒業後、大阪「野田屋」で西洋料理の基礎を学び、74年に渡仏。「ル・デュック」「アラン・シャペル」「ピック」で修業後、81年、神戸ポートピアホテル「アラン・シャペル」オープンにあたり帰国し、シェフを務める。ハウステンボス「ホテルヨーロッパ」総料理長及び総支配人を経て、現在は長崎市「パティスリー カミーユ」オーナーシェフ。黄綬褒章受章。現代の名工。フランス農事功労章オフィシエ受章。日本エスコフィエ協会理事。クラブ・ド・タスキドール会長。

著書『ソース~フランス料理のすべて~』『キュイッソン』(柴田書店)

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シリーズ

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