外国人マネジメントのプロが教える 転ばぬ先の外国人スタッフ&ゲスト対応術

第1回

なぜ、うちの店は
外国人スタッフが
すぐに辞めるのか?

講師は杉山秀一(すぎやま ・しゅういち)氏。 2016年に外国人専門の人材マッチングサービスとインバウンドソリューション企業のインディゴジャパンを創業。外国人スタッフのマネジメントや外国人観光客のおもてなしなどについての講師などを務めています。 昨今のフードサービス業界で留意しておくべき外国人従業員のマネジメントと外国人ゲストの迎え方について、3回にわたり、ポイントを解説していただきます。

更新日:2020年02月13日

日本のホスピタリティ産業ではここ数年、外国人に関係する動きが活発になっています。この流れには二つの側面があります。一つは、日本の人口減少で働き手が不足していることから、外国人をスタッフとして採用し、戦力化しようという動き。そして、東京オリンピック・パラリンピック開催を間近に控え、海外からのゲストの需要取り込みを図る動きです。

当社は中国などの留学生などを物販店や飲食店などに派遣・紹介する事業や、海外からのゲストの視点でインバウンド需要を取り込むためのマーケティング支援をする事業を手掛けています。最初の2回で、まずは働き手としての外国人に着目し、そのマネジメントのポイントをご説明します。事務手続きに関する内容から順にご説明すると退屈に感じる方がいらっしゃるかもしれませんので、今回は端的に、「なぜウチの店の外国人スタッフはすぐに辞めてしまうのか」というお悩みをお持ちの方にお役に立てるように、外国人スタッフの教育、コミュニケーションで気を付けるべきポイントをお伝えしてみたいと思います。

「何をストレスに感じるか」を知る努力を

外国人スタッフの定着率の低さに悩んでおられる飲食店は多いようです。しかし、最初から辞めるつもりで応募する人はいません。「だから外国人はダメだ」と決めつけたりするのではなく、彼ら、彼女らが辞めた理由や、働くうえで苦痛に感じていることが何かを知り、改善してみる必要があるのではないでしょうか。

「背中を見て覚えろ」「先輩の仕事を見て盗め」といった昔ながらの接し方が通じないのは、相手が日本人であろうと外国人であろうと同じです。また、飲食店で働く外国人は、日本語にたどたどしさはあるものの、ゆっくりと話せば、ある程度まとまった内容を理解できる人が大半だと思いますので、オーナーや店長さんも、できるだけゆっくり、簡単な言葉を選んで話すように気を付けているはずです。

それでも外国人スタッフが店を辞めるのは、文化の違いから来る、コミュニケーションのすれ違いが原因である場合が大半なのです。最初が肝心。まずは、入店時に仕事を教えるときに、以下の二つを意識することから始めてみてはいかがでしょうか。

初心のイメージ写真

ポイント1
基準を示して具体的に伝える

「テーブルをきれいに拭いておいて」。こんな指示を出し、「はい」との返事もあったのに、仕上がりを見たらテーブルに拭きムラがあって、水分も残っている。「ダメじゃないか、きちんとやってくれなくちゃ。やり直し!」――。よくあるシチュエーションです。「きれいに」「きちんと」「しっかり」。こうした曖昧さを伴う指示に、外国人は戸惑います。言葉の意味から、完成度の高さが求められていることは分かりますから、期待や要求に応えようと仕事をしたつもりなのに、その結果を否定されれば、言われた方はプライドが傷つきますし、気分も悪いです。居心地が悪くなり、退店につながります。

外国人スタッフは生活習慣が違う場所から日本に来ているのですから、「しっかり拭く」「きれいに並べる」ことがどのような状態を指すのかが分かりません。業務の指示は曖昧な言葉を使わず、基準などを示しながら具体的に伝える。これが鉄則です。例えば、下イラストのような言い方です。

調味料入れの受け皿は、テーブルの奥の縁から3cm内側に、テーブルの縁と平行に並べてください お客様にお出ししたグラスの水の量が半分より少なくなっていたら追加で水をいれてください

写真や図解入りのマニュアルを用意しておくのが理想です。ない場合は、作業のポイントを伝えながら、実際に体を動かして手本を見せ、次に外国人スタッフと一緒に作業をして覚えてもらうとよいでしょう。

ポイント2
納得できるように、理由を伝える

次に、コニュニケーションでは、納得感を大切にしてください。「仕事のやり方を教わって、『なぜそうするのか』と聞いたら、『いいから言われた通りにやりなさい』と叱られた」。外国人スタッフがよく口にする不満です。自分のそれまでの常識と違うことを仕事としてする以上、理由を聞くのは当然で、その理由に納得できさえすれば、前向きな気持ちで取り組めると話す外国人スタッフが多いです。逆に、理由も教えてもらえないと、その仕事の意味が分からず、苦痛になります。

これは先ほどのポイントとも関連しますが、仕事で要求する水準については、相手が納得できるように説明しないと、「やり直し」の繰り返しになってしまいます。「おもてなし」との言葉に象徴されるように、日本ではきめ細やかで行き届いたサービスが当たり前になっています。しかし、それが当たり前でない国や地域で育ち、暮らしてきた人にとっては、その細やかさは過剰に見えます。ですから、指示やルールの説明は、以下の例のように、「なぜそうするのか」の理由を一緒に伝えるように心がけてください。

食器洗浄機のラックに食器を並べたら、その上に直接、ほかの食器を置いてはいけません。

逆もまた然り、です。「レジ打ちを間違えたとき、自分がどうしてその方法で作業をしたかを説明しようとしたら、『言い訳はするな』と叱られた」。こんな不満も多くの外国人スタッフが抱いています。

想定と違う動きをしたときは、頭ごなしに注意をするのではなく、スタッフに理由を尋ね、話の中に誤った認識があれば、それを正すようにしてください。双方が理由を話し、納得してこそコミュニケーションが成立すると考えている国や地域は非常に多いです。「この店の人は私の話をきちんと聞いてくれる」。このことだけでも外国人スタッフのストレスは大きく軽減されるはずです。

ここまでのポイントを聞いて、面倒だと感じる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、文化が違う場所から来た人と一緒に仕事をするのですから、その違いを理解し、相手が受け入れやすいように伝え、教育することが、外国人をスタッフとして戦力化するためには不可欠です。次回は、彼らに長期的に働いてもらうためには何が必要かについて、ご説明する予定です。

講師紹介

株式会社インディゴジャパン取締役会長
杉山秀一(すぎやま・しゅういち)
外国人専門の人材マッチングとインバウンドソリューションを手掛ける、株式会社インディゴジャパン取締役会長。1978年、慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社丸井(現丸井グループ)入社。バイヤー、小田原店や渋谷店の副店長、新宿マルイワン初代店長、静岡店店長、総務部長、広報部長などを歴任。2016年、インディゴジャパンを設立、代表取締役社長。2019年6月より現職。2019年ホテレスJAPANインバウンドセミナー、(一社)ジャパンショッピングツーリズム協会・日本商工会議所共催 「オリパラ直前 訪日ゲストおもてなしセミナー」、日経BP「グローバル人材2018」セミナーなど、講師実績多数。

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