fujimak kitchen concierge

プロジェクト担当者に聞く 「The Okura Tokyo」が目指す最高水準の衛生管理 第1回

調理の現場と共に取り組んだHACCP対応の衛生管理

2019年9月、ホテルオークラ東京 本館が、装いも新たにThe Okura Tokyo(ジ・オークラ・トーキョー)として開業しました。開発コンセプトは「伝統と革新」。その考え方は、新しくなった厨房設備や、HACCP対応の衛生管理にも当てはまるといいます。

この度、株式会社ホテルオークラ東京 洋食調理部で食品衛生管理を担当しておられる大塚勝様に、The Okura Tokyoで新たに導入したHACCP対応の衛生管理システムについてお話を伺いました。ホテルとして最高水準の衛生環境を提供するうえで、どのような点に気を配り、衛生管理のシステムを構築していったのか。インタビューの模様を3回にわたってお届けします。

更新日:2020年04月01日

私ども株式会社ホテルオークラ東京は2019年9月12日、ホテルオークラ東京本館の跡地に、The Okura Tokyo(ジ・オークラ・トーキョー)を開業しました。オークラグループのトップブランドに位置づけられる「オークラ プレステージタワー」と、中層棟「オークラ ヘリテージウイング」の2棟で構成されます。

客室数はスイートルーム17室を含む508室。最大収容人数約2300名を誇る「平安の間」をはじめ、宴会場も都内屈指のスケールでお客様をお迎えします。日本料理「山里」、ホテル鉄板焼レストランの先駆けとなった「さざんか」、日本初のホテル直営による広東料理レストラン「桃花林」といったホテルオークラ東京本館時代からご愛顧をいただいていた直営レストランのほか、オークラフレンチの基礎を築いた故小野正吉の系譜を引く「ヌーヴェル・エポック」が新規開業し、「食のオークラ」も新しい時代へと歩みを始めました。

HACCP制度化の決定前から導入準備を開始

私どもではこれまで、最高の施設(Accommodation)、最高の料理(Cuisine)、最高のサービス(Service)で構成される「Best A.C.S.」を掲げ、国内外のお客様をお迎えしてきました。The Okura Tokyoではこの「Best A.C.S.」を更に高いレベルで追求すべく、お客様の目に触れない部分でも、多くの革新に取り組んでいます。その一つが、食品衛生に関する取り組みです。ハードとソフトの両面で、業界最高水準の食品衛生のシステムを構築し、安全な料理の提供に取り組んでいます。

このインタビューをご覧になる方は厨房や衛生管理に関心の高いフードサービス関係者と伺っています。皆様もご存知のように、2017年6月に食品衛生法が改正され(「食品衛生法等の一部を改正する法律」公布)、原則として全ての食品等事業者が HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point=危害分析・重要管理点方式)に沿った衛生管理に取り組むことが求められるようになりました。「HACCPの制度化」などといわれるものです。

私どもは厨房設備が一新される2019年9月のThe Okura Tokyo開業をターゲットとして、HACCP導入のプロジェクトに取り組み始めました。今から5年前のことです。当時はHACCP法制化がどのようになるのか、手がかりがほとんどありませんでした。

ホテルオークラ東京本館では、これまで大きな食品事故を発生させたことがありません。安全な料理の提供がすべての大前提となることは、調理・サービスに携わる全スタッフの行動原理として定着していますし、その意識のもとに高い衛生管理レベルを維持してきました。定期的に食品衛生に関する社外の専門家のチェックと指導も受けてきました。検査担当者が社内の人材だと、「今の時期は宴会が続いて大変な時期だから仕方がない」などと現場を理解しすぎて指摘が甘くなりかねないと考えているからです。

現場スタッフが参画し、CCPを検討

そのような状況で、The Okura Tokyoの開業を機に最新の厨房機器やシステムを導入し、最高水準の衛生管理を実現しようとしても、現場から「今も大丈夫なのだから、そんなシステム、必要ないよ」と言われてしまう可能性もありました。ですので、HACCPを理解し、HACCPに基づくより高い衛生管理が必要であること、そのためにHACCPの観点で業務フローを再点検する必要があることを、現場の人たちに腹落ちしてもらうことがプロジェクトの成功には欠かせない条件でした。

そこでまず、衛生管理システムの導入をお願いした厨房機器メーカーの協力を得ながら、調理部の現場との綿密なコミュニケーションを図ることから始めました。和食、洋食、中国料理、製菓・製パンの4部門で、HACCPの勉強会を重ね、食材の搬入から保管、下処理、調理、提供の各工程でどのようなHA(危害要因)があるのかを検討し、CCP(重要管理点)を定めていったのです。レシピ片手に、「ここはどうしましょうか」と、一つずつ、知恵を出し合いながら検討を重ねたのです。

当初は、HACCP導入に半信半疑だった現場スタッフもいたかもしれません。ただ、プロジェクト開始から1年ちょっと経った頃から、現場の調理スタッフと私たち検討チームのベクトルが揃い、歯車がかみ合う実感がありました。料飲の専門誌や調理師の会合などでHACCP制度化の動きを見聞きする機会が増えたこともあって、「うちで今度始めようとしているのは、これか」などと、一人ひとりにその意義が腹落ちしたのだと思います。HACCP導入の重要性が組織全体に認知され始め、「ミーティング、今度はいつやるの?」などと現場から声を掛けてもらえるようになりました。

健康な従事者が食品を取り扱う

実際の仕組みについては次回、お話ししますが、最初にお伝えしておきたいことがあります。衛生管理は、「健康体である担当者が食品を取り扱う」ことが極めて重要です。The Okura Tokyoでは、調理部のみならず将来的には食の提供に携わる部門のスタッフが、ホテルに入館するたびに自身の健康状態をチェックし、その結果を衛生管理と連動させるシステムを稼働させることを想定し初めて導入しました。

出社したスタッフは、従業員通用口にある「健康チェック管理システム」のリーダーに、電子タグが埋め込まれた、顔写真付きのIDカード(入館証)をかざします。すると、壁面に据え付けてある健康チェック管理システムが立ち上がり、タブレットの画面に「吐き気はない」「手指は化膿していない」「身内に感染者はいない」など、7つのチェック項目が表示されます。日本人以外のスタッフもおりますので、英語でも表示しています。

その各項目すべてで「〇」を選択し、「登録」ボタンをタッチした人だけが入館を許されます。そして、この健康チェック管理システムで申告した情報と、IDカードが、調理中の衛生管理の現場でも重要な役割を果たすのです。その仕組みについては次回、お話しします。

提供 (株)フジマック 無断転載を禁じます。