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プロジェクト担当者に聞く 「The Okura Tokyo」が目指す最高水準の衛生管理 第2回

調理の流れをさまたげないHACCPを模索

2019年9月、ホテルオークラ東京 本館が、装いも新たにThe Okura Tokyo(ジ・オークラ・トーキョー)として開業しました。開発コンセプトは「伝統と革新」。その考え方は、新しくなった厨房設備や、HACCP対応の衛生管理にも当てはまるといいます。

この度、株式会社ホテルオークラ東京 洋食調理部で食品衛生管理を担当しておられる大塚勝様に、The Okura Tokyoで新たに導入したHACCP対応の衛生管理システムについてお話を伺いました。ホテルとして最高水準の衛生環境を提供するうえで、どのような点に気を配り、衛生管理のシステムを構築していったのか。インタビューの模様を3回にわたってお届けします。

更新日:2020年04月08日

The Okura Tokyoでは最新の厨房機器や情報システムを導入しながら、HACCPに基づいた最高水準の衛生管理の実践を目指しました。そのシステム構築にあたって、プロジェクトチームが重視したことがあります。調理に携わる現場スタッフのオペレーションをできるだけ阻害しないようにすることです。

五感を使った確認も組み込む

料理の世界は、長きにわたって、五感を駆使して食品や料理の安全性を確認してきました。食材や料理の色や見た目、焼きあがるときの音、におい、触感などで、食材や料理がどのような状態にあるのかを判断することができます。実際に食材や料理を口にして確かめる場合もあります。これらは経験と勘に裏打ちされた安全性のチェックであり、調理の各工程で自然な確認動作として定着しているものです。

HACCPは科学的な衛生管理手法です。私たちは、その科学と、経験や勘との融合を図るように努めました。HACCPの導入でキーの一つとなる重要管理点(CCP)の設定では、何でも杓子定規に機械や器具で計測するのではなく、従来通り五感で確かめた方が合理的なものは、従来通りの方法をCCPの確認方法として採り入れています。

最も分かりやすい例で言いますと、水を加熱し、鍋底から気泡が次々と出てくれば、沸騰していることになります。わざわざ温度計を鍋に入れて100℃になったかどうかを確認するのは余計な作業を増やすことなり、ナンセンスです。色や液体の濃度、食材のふくらみ具合など、加熱や冷却が一定の状態まで進まなければその見た目や触感などにならない工程はいくつもあります。そういう工程は、「その状態になっていること」をCCPで望ましい状態になっていることの確認方法として設定するわけです。

HACCPは、食品の事故が起きないような環境を設定することと共に、食品の提供に至る各工程の履歴を残すことに大きな意味があります。万が一、お客様が体調を崩されたときに、お出ししたメニューについての記録が残っていれば、その履歴を追うことで、私どもに問題があったのか、なかったのか、問題があったとすればどの工程だったのか、一緒に仕込んだ料理をどこで提供したのか、などについて、いち早く確認することができます。一連のエビデンスが残っているというのは、品質保証の観点からも安心材料になります。今回、CCPで記録を定めた温度や時間などのデータは、データを採取した各工程の担当者が、ハンディターミナルで衛生管理システムのコンピューターに送信する仕組みにしています。

担当者情報をスキャンで登録

ただ、それだけでは、トレーサビリティの観点では十分とは言えません。「誰が」その工程を担当し、食材の状態を確認したのかが分からないからです。そこで、The Okura Tokyoでは、各工程の開始時と終了時に、担当者が自分のIDカードをスキャンして担当者名を登録するようにしています。担当者名の登録は、ハンディスキャナーで、コンビニのレジで目にするように、自分のIDカードを「ピッ」とスキャンするだけです。ペンを持ち、機器に備え付けのノートに数量や時間、担当者名を記録する動作を加えていては、流れが阻害されてしまいます。これをスキャン動作一つで完結するようにしたのです。各部門とのミーティングの席でも、この方式で記録を残す旨を説明したところ、各部門のトップが「簡単な動作でできるのだから、皆で取り組もう」と賛同してくれました。

人事システムのIDを衛生管理にも活用

前回、「健康チェック管理システムで申告した情報と、IDカードが、調理中の衛生管理の現場でも重要な役割を果たします」と話を結びました。入館時に健康チェック管理システムで登録に使ったIDカードと、この調理工程で確認用にスキャンするIDカードは同じものです。The Okura Tokyoの開業にあたって、入退館等に使用する人事情報のシステムと、衛生管理のシステムとを紐づけました。ですから、調理中の登録や確認は、「健康なスタッフがその工程に携わった」ことの証明にもなるわけです。

現在、CCPを設定しているメニューは、いわゆる大量調理の範疇に属する、一定食数以上を仕込むアイテムに限っています。お客様のご要望などへの対応で、定番でないメニューを新たに仕込む場合には、料理長がCCPをどこにするかをレシピのシステム上で設定します。その内容は厨房にあるハンディターミナルで確認できますので、現場で担当者がその内容に照らして温度や時間などのチェックをし、その条件通りに調理が終わった旨を登録して、サーバーに送信します。

2019年9月の開業から数カ月が経過した現在、新しい衛生管理の仕組みは、現場スタッフからもおおむね好評です。年末の宴会シーズンという大きな繁忙期を混乱なく運営できたことで、自分たちのルーティンとして定着しつつあるようです。そのような好意的な意見の背景には、単に新しい衛生管理のシステムによるオペレーションが円滑に運用されているという意味だけではなくて、The Okura Tokyoの厨房が、働きやすい環境になっていることの評価が混ざっています。

次回は、衛生管理の観点で望ましく、働きやすい環境について、ハードを中心にご紹介したいと思います。

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