厨房設計コンサルタントが教える繁盛店づくりの視点

第2回

採用
胸を張って
「うちの店で
働くと楽しいよ」と言おう

長年にわたり、厨房設計のコンサルタントをされている畑さんの目線から、繁盛店の作り方を語っていただく連載の第2回では、本格的な人口減少時代に入った日本で、飲食店経営者が人材不足とどう戦って行けば良いのかについてお話いただきます。

更新日:2019年07月08日

厨房の設計をお手伝いしているお店の経営者から、「人が集まらない」という嘆きを聞く機会が増えています。前回のこのコラムでご紹介したように、日本は本格的な人口減少時代に入って働き手の数が減っています。飲食店経営における人材不足との戦いはこの先も続きます。

それでは、そのような厳しい環境の中で、どうすれば自分の店に人材を集めることができるでしょうか。他店の2倍の賃金を払えばすぐに集まるのかもしれませんが、それではいずれ人件費倒産になってしまいます。

最低賃金の推移

発想の転換が必要なのだと思います。「どうすれば人が集まるか」ではなく、自分が社員やアルバイトで働く人材になったつもりで、「どんな店なら働きたいか」を考えれば、解決の糸口は見えてくるのではないでしょうか。

「この店楽しい」が「この業界楽しい」に

私の場合、は飲食店や厨房設計の仕事に携わるようになって30年以上たちます。工学部の学生時代、ダスキンが展開を始めていた「ロングジョンシルバー」というシーフードのファストフード店でアルバイトをしたことが外食産業への入り口でした。

店で面接をしてくれた幹部社員の話がとにかく面白かったのです。この店がフィッシュ&チップスなど、当時の私たち若造が見たこともないメニューを扱っていること、「海外のファストフードのメニューはハンバーガーだけではない。それを多くのお客さんに広めていきたいんだ」と熱っぽく語ったこと、「これから店を増やしていく。この店でそのベースを作っていく」と意気込んでいたことなど……。いつの間にか、「ここで働いたら楽しそうだな」と思い始めている自分がいました。

実際に働き始めてすぐ、私の直感は正しかったと確信しました。楽しい仲間とも出会い、今でもその当時の仲間とは交流があります。また、工学部の学生だった私は、毎日帳票に記載しなければならない食材原価率をメニューの出数から自動で算出するプログラムをポケットコンピューターで作りました。自身の業務効率を改善したり、本部から提供されているオペレーションマニュアルの一部を実際の現場作業に合わせて改良したりしていました。

マネジャーはそれを認めてくれ、改良したマニュアルに基づいて作成した手書きの帳票を本社に掛け合って、正式な帳票として採用できるようにしてくれました。マネジメントに関われることにやりがいを感じ、今度は「この業界、楽しいじゃないか」と思い始めるようになっていました。

今も、外食産業はピープルビジネス

昔話を延々と披露したかったわけではありません。当時の私は、時給や福利厚生といった条件面ではなく、面接をしてくれた幹部社員さんの人柄と熱意に「ここは楽しそうだ。働いてみたい」と気持ちが動き、皆が前向きに働いている空間に魅力を感じたのです。外食産業はピープルビジネスだとよく言われます。その通りだと思います。そして、時代は変わったとしても、人が作る雰囲気や空間が他の人を惹きつけるのは、今も昔も同じではないでしょうか。

職場は1日のうちの数時間を過ごす空間です。気持ちよく働きたい。やはり雰囲気は明るい方がいい。経営者の人間的な魅力であったり、職場のチームワークであったりといった「楽しさ」を感じられる店を選びたいと感じる人が多いはずです。逆に、自分で今の仕事や店に愛着を感じることができず、自分の店に履歴書を持ってアルバイトの面接に行きたくないと感じるようなら、それは人材確保の策を講じる前にやるべきことがあるはずなのです。

待遇の条件競争から抜け出すために

ご自身が店を開業した時のこと、外食の世界に入った時のこと、いわゆる“初心”に帰って、店や仕事に賭ける思いを整理し、他人に伝えたくなるような「うちの店の魅力」を言葉にしてみましょう。個人のキャラクターでも、店のポリシーでも構いません。

人が感じる「楽しい」の定義は一つではないでしょうから、店主やスタッフが、人気者と呼ばれるような社交性や明るさを兼ね備えていなくてもよいのだと思います。例えば、「お客さんにお出しする料理は丁寧に作る」「シニアのお客さんに優しく接する」でもいいと思います。自分がフードサービスの世界で働く上で、自分の店を運営する上で大切にしていることを、面接に来た人にきちんと伝え、「この指止まれ」と言える軸を作れれば、「一緒に働きたい」と感じてくれる人はきっと現れます。

時給や福利厚生などの条件はもちろん大切です。しかし、「この店で働くことが楽しい」と感じてもらえる人や空間は、それらの条件を吹き飛ばす大きな価値となり得るのです。

講師紹介

NRTシステム代表取締役
畑治(はた・おさむ)
1959年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学工学部を卒業後、フードサービス企業やフードサービスのコンサルティング企業などを経て、1988年に厨房設計コンサルティング業務を手掛けるNRTシステムに入社。2010年に代表取締役に就任。モットーは「日本の厨房を良くしよう!」

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