厨房設計コンサルタントが教える繁盛店づくりの視点

第3回

適性
「腕はいい」から
「腕もいい!」に
変身するための条件

厨房設計のコンサルタント、畑治(はた・おさむ)氏が語る、繁盛店の作り方。美味しい料理を作れる名シェフの誰もが、繁盛店を作れる優れた経営者になれるわけではないというのが飲食業界の常、と、独立開業を目標としている料理人へ経営感覚を身に付けることの大切さを説きます。

更新日:2019年07月15日

料理人にとって、「いつかは独立開業したい」というのが一つの目標でもあります。しかし、美味しい料理を作れる名シェフの誰もが、繁盛店を作れる優れた経営者になれるわけではないというのが飲食業界の常でもあります。

そんな中で、ありがちな失敗が「ご自身の料理に自信を持ちすぎていること」。料理人として、自分の腕を磨いて開業するオーナーシェフですから、美味しい料理を提供できるのは当たり前のことでしょう。ただ、腕を過信して、店を利用してくれる消費者との認識のズレに気がつかない人が意外と多いのです。

「自分がつくるコース料理ならば、価格以上の価値がある」と考えて、例えばランチコースを1500円で提供したとします。ところが、出店した場所はランチ1000円未満でコストパフォーマンスの高い飲食店が多く、来店客はビジネスパーソンがほとんどの立地だったらどうでしょうか。提供に時間がかかり、価格帯も高めのコースは敬遠されることが予想されますよね。

つまり、作り手=シェフの考えを優先させたプロダクトアウトの店づくりではなく、周囲の環境を観察し、市場のニーズを押さえたマーケットインの考え方をしないと、消費者に愛される店にはならないわけです。

 美味しそうなハンバーグ料理のイメージ

“生存率”は2年で50%!

飲食店が、開業してから店を閉めるまでの年数とパーセンテージを表したのが、いわゆる「飲食店の生存率」です。首都圏や地方など地域や立地環境などによって多少差はありますが、一般的には2年後50%、4年後40%、10年後5%と言われています。かなりショッキングな数字ではないでしょうか。他の業種も決して“生存率”が高いわけではありませんが、飲食店の場合は目立ってその数字が低いのは確かです。

息の長い店づくりをするためのポイントとなってくるのは、最初にもお伝えしたマーケットインの考え方。そして、苦手な方も多いと思いますが「数字」です。

個人で営業をしていらっしゃる方ですと、例えば、一カ月営業をした売上高に対して食材原価や人件費などがどれだけかかって、手元にいくら残っているか。それが意外と分かっていない人が多いのです。中には、個人の財布とお店の財布が一緒になってしまっている人もいらっしゃいます。「まさか、そこまでは」と思われるかもしれませんが、実際によくあることなのです。

「料理の腕はいいけれど……」から、「料理の腕もいいね!」と言われる経営者に進化するためには、数字に敏感になり、経営感覚をしっかりと身につけることが大切です。

数字を追いかける毎日

まず大切なのは、目標となる経営数値を決めて、その目標に対して現在自分の店がどういう状態にあるのかを常にチェックしておくことです。

例えば、カウンター8席、テーブル4席の寿司店で、客単価は2万円。従業員数は3人としましょう。仮に1日10万円の売上高目標を立てて、1日目は12万円売り上げた。では、翌日は8万円以上売れば2日分の目標はクリアできることになります。では2日目がゼロだったら、5万円だったら……、という形で毎日積み重ねをしていくわけです。単純なことですが、リアルタイムで店の状態を把握するには効果的です。

電卓叩いている画像

原価管理は、この売上高とのバランスで常に数字を追いかけます。利益が出ていないからといって、単に安い原材料を使用すると、料理自体の質が下がりますから逆効果。お客様が離れていく原因になりかねません。

それよりも、売上高に対しての原価の傾向をチェックすることが重要です。突然売り上げが減っている時に、原価率に影響を及ぼす高単価の食材を仕入れていないか、アルコールの出数はどうかなどを徹底的に調べるわけです。売り上げ、食材原価、人件費のバランスで、目標値に近づいているのかをリアルタイムで追いかけていくのが良いでしょう。

また、食材のコストは管理していても、それ以外の経費には無頓着な料理人も多いですね。 ぜひやっていただきたいのが、水道、電気、ガスなどのメーターを、毎日営業が終わるタイミングで読んで記録すること。毎日営業していると、それぞれのカウンターが進む数値はほぼ安定してくるものです。それが飛び抜けて多い時は、照明の切り忘れや水道の漏れなど、何か原因があります。こういったことから、意外なロスが見えてきます。

店の業種や規模によって傾向は違いますが、大切なのは自店の傾向を把握すること。そうすれば何か異変があった時にすぐに気がつき対策を講じられ、マークするべき数字を追いかけることで店の状態を把握する「眼」を養うこと。これが「腕もいい!」料理人になるための第一歩なのです。

講師紹介

NRTシステム代表取締役
畑治(はた・おさむ)
1959年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学工学部を卒業後、フードサービス企業やフードサービスのコンサルティング企業などを経て、1988年に厨房設計コンサルティング業務を手掛けるNRTシステムに入社。2010年に代表取締役に就任。モットーは「日本の厨房を良くしよう!」

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